もしも桃太郎がジャンプで連載されていたら
おばあさんが川で洗濯をしていたら、川上から大きな爆発音がしました。
巨大な桃が空から降ってきたのです。持ち帰った巨大な桃を切ると、中から赤ん坊が出てきました。
「桃太郎」と名付けられた赤ん坊は、普段は柴刈りをする温厚な老人、しかしその正体は格闘技の達人でありかつて伝説の暗殺武術「岡山拳」の伝承者として恐れられていたおじいさんから猛特訓を受けながらスクスクと育ちました。
パンチに残像が出てくるようになった頃、おじいさんが何者かの襲撃にあって亡くなりました。鬼が村を襲ってきたのです。
鬼の魔の手がおばあさんに伸びたとき、桃太郎の中にある『血(ちから)』が覚醒(めざ)め、おじいさんからの絶対使わないようにという教えを破って伝説の奥義を繰り出しました。
「岡山拳・必殺奥義――『鈍舞羅虎(どんぶらこ)』!!
吹っ飛ばされる鬼。そして桃太郎は自分の中に凶暴な血が流れていることに気づき始めるのです。ここまでで第一話でした。
鬼を退治するため、桃太郎はおばあさんからきびだんごを貰って旅に出ました。
その途中、犬と出会いました。犬はちょっと陰のあるイケメンの青年で、クールな口調とトゲのある性格。桃太郎とは今後、事あるごとに何度も衝突することになるのですが、いざとなると頼りがいのある味方になってくれるライバル的存在であり、だいたい二年後くらいに放送予定のTVアニメ版放送以降、この二人がセットになったイラストがpixivやコミケに氾濫することになりますがそれはまた別のお話。
今度はサルと出会いました。サルは攻撃力が高い代わりに動きが遅いテンプレどおりのパワーファイターなのですが、戦ってみるとそれなりに桃太郎を追い詰めました。
スピードで応戦するため、桃太郎はきびだんごを捨てました。きびだんごを拾ったサルは驚きました。
「このきびだんご、一個300kgくらいあるぞ! まさかこいつ、今までこれをお腰に付けて俺と戦っていたのか……!?」
サルは負けて桃太郎の仲間になりました。
鬼ヶ島へ行く途中、どういう流れなのか格闘トーナメントのようなものに参加することになりました。
そこそこ個性的なキャラ達がそこそこ個性的な戦い方をする中、桃太郎は決勝でキジと戦いました。見事キジを破り仲間にした桃太郎でしたが、シャワーをうっかり覗いてラッキースケベ。キジは実は女の子でした。
ここで第一回の人気投票が行われました。イヌが二位の桃太郎に数千票近い圧倒的な差を付けて首位に収まり、八位のサルが小さなコマの中で「なんで俺の順位がアイツより低いんじゃ~い!」みたいなことを言い出し、作者が十七位くらいでした。
この頃、本誌で連載中の漫画家全員の顔写真が表紙に掲載されたことから、『桃太郎』は深刻な女性読者離れが起き始めましたが、イヌの登場シーンを増やすことで事なきを得ました。
アニメ化の効果もあって『桃太郎』の人気はピークに。露骨な引き伸ばしが始まり、桃太郎達が鬼ヶ島へ上陸してから鬼の大将の元に着くまで、一年かかりました。冨樫は休載中でした。
「ついに追い詰めたぞ、鬼の大将め! おじいさんの仇だ!」
「ふふ、桃太郎。お前に俺が倒せるのかな……何を隠そう、俺はお前の親父だ!」
「そんな! 僕にも鬼の血が流れていたというのか……!?」
そんな茶番が続いていた頃、本誌で連載が始まった『浦島太郎』が人気を博し、桃太郎は読者層を奪われつつありました。アンケート人気が急降下。掲載順もこち亀の二つ下くらいになりました。
仲間達の手助けもあり、桃太郎はついに鬼の大将を倒すことに成功。
しかしそのとき、一個300kgのきびだんごが猛スピードで飛んできて、サルの心臓を貫きました。
「サルーーー!! ちくしょう、誰が一体こんなことを……!」
「私じゃよ」
「あ、あんたはおばあさん!?」
実はおばあさんが黒幕だったのです。洗濯で鍛えたそのパワーに為す術のない桃太郎達。容赦なく飛んでくるきびだんご。散っていく仲間達。インフレを起こす戦闘力。
そのとき、倒したはずの鬼の大将が助けに駆けつけました。桃太郎に敗れて改心したのです。
力を合わせ、ついにおばあさんを倒した桃太郎達。しかし、散り際におばあさんがこんなことを言いました。
「私が倒れても、第二、第三のおばあさんがやってくる。海の向こうにはたくさんのおばあさん達が住む修羅の国があるんじゃよ!」
「何だって!? じゃあそこにいけばもっと強いおばあさん達と戦えるのか! くぅ~、こうしちゃいらねえ! みんな行くぞ!」
「まったくもう、桃太郎ったら相変わらず強いやつに目がないんだから!」
「ふん……しかし桃太郎、お前を倒すのはこの俺、イヌだ」
「成長したな、息子よ……俺はもう思い残すことはない」
「よぉ~し、俺達のおばあさん退治はこれからだ!」
ご愛読ありがとうございました! 金太郎先生の次回作にご期待ください!
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