完全オリジナル創作童話「りっぱなお城」
昔々あるところでおじいさんとおばあさんが亀をいじめていました。
そこに、いつも赤いずきんをかぶっていた大工がドンブラコドンブラコと言わんばかりに近寄ってきました。
「君たち、どうして亀をいじめているんだ」
「この亀が竜管城を壊したんじゃ」
聞いた所によると、亀は竜管城と呼ばれるボロボロのハリボテの城を支えていた柱にうっかりぶつかってしまったためハリボテの城は倒れてしまい、そのついででお茶碗に乗っていた小さな侍が潰れて死んでしまったそうです。
「何もわざと壊したわけじゃないのだから許してあげなさい」
「じゃあお前がお城を直してくれるっていうのか?」
「たかだかハリボテのお城だったんだろう。もっといい城を作ってやるよ」
そうは言ったものの、普通の民家は作ったことこそあるものの、城など作ったことはない大工。
そこで実際にお城に住んでいる知り合いのシンデレウ姫からアドバイスを受けることにしました。
「シンデレウ姫、君の住む城を参考にしてもいいか?」
「もちろん、好きなだけ見ていってちょうだい」
シンデレウ姫のお城の特徴をメモした大工は、次はお城の材料になるものを探そうと山の中へ入りました。
するとそこに、金色に光る竹を見つけたのです。
「これは珍しい。早速お城を支える大黒柱に使おう」
続けて山を歩いていると、道すがら青い鳥を見つけた大工はなんとなくその鳥を捕まえ、さらに山の奥へ行くと生きた臼を連れた旅人に出会いました。
「お、そこの大工さん。可愛い鳥を連れているね。しかも青いだなんて珍しい。よかったらこの生きた臼と取り替えてくれないか。先程悪さをしたサルを潰して殺したところなので多少血が付いてしまってはいるが……」
しかしいい木材を使った臼だったので、これは使えるぞと思った大工は青い鳥と臼を取り替えました。あとお菓子の家があったので食べました。
「さて、材料も揃ったしお城を作るとしよう」
それから大工はシンデレウ姫のお城を参考に、三日三晩寝ずに作業を続けてついにお城を完成させたのです。それは何十人、何百人と住むことができる大きなお城でした。
「なんて立派なお城なんだ。ハリボテの城なんかより全然いい」
今はなきハリボテの城に暮らしていた者達はみんな大喜び。こぞってお城へ住み始め、ひと安心した大工でしたが、老人のひとりがふと気付きました。
「この城、シンデレウ姫のお城に似てないか?」
その一言で急にみんながざわつき始めたので、大工は言いました。
「シンデレウ姫のお城を参考にしたからね。でもハリボテの竜菅城よりはマシだろう?」
すると、二、三人の老人が騒ぎ始めました。
「こんな城に住めるか! すでにある城の二番煎じなんて真っ平ゴメンだ。絶対的なオリジナリティにあふれた唯一無二の画期的な城じゃないと絶対認めないぞ」
「何言ってるんだ。お前ら城も建てられないくせによくそんなワガママが言えるな。だいたいお前ら最初は立派なお城だって言ってたし、何より最初に住んでたのはただのハリボテだったんだろう。似てるくらいなんだ。別に困ることもないだろうし文句言わずに住め」
それでも騒ぎ始めた二、三人は止めること無く口うるさく大工と城を罵り始めました。まあ自分が住むわけでもないし、騒いでいるのはたった二、三人だから問題はない。大工はそう思ってお城を出ました。
ところがこれを嗅ぎつけたのが、町でかわら版を売って暮らしている全太郎という男。全太郎は大工の城がシンデレウ城に似ていること、それから大工の過去を探って過去に起こったちょっとした失敗を大げさにかわら版へと書き記し、お城の近くにばら撒きました。
一方、お城に暮らす者達は毎日ヒマを持て余しています。そんなとき、全太郎の新聞が目に留まりました。
「なんか面白そうなことやってるぞ。もしかしてこの大工、最低なやつなんじゃないか?」
「そうだそうだ。こんなやつの作った城なんかに住んでていいのか?」
一度そう考えると、相も変わらず騒いでいた数名の老人たちの声が、なんだかとても説得力のあるものに聞こえてきた城の住人たち。何よりいい暇つぶしの材料ができたとばかりに、彼等もまた老人たちと声を揃えて、大きな城を作ってもらった恩はどこへやら、大工を罵り始めます。
それと同時に、全太郎のかわら版は飛ぶように売れました。これに気を良くした全太郎は熊にまたがりお馬のけいこをするのも忘れて、今度は大工の過去の恋愛など、大工仕事とは全く関係ないことまで書き記すようになり、どうせならと少しの嘘も混ぜ込みました。
全太郎にとって城に住む人間や大工の事情などどうでもいいことなのですが、それでも全太郎の思惑以上に書けば書くほど売れるかわら版。やがて話は町の外にまで漏れ伝わりました。
一方、自分が町中の人間に追われている事に気づいた大工は、最早誰も住まなくなったお城へと逃げ込んだのです。外ではかつての城の住人たち、そもそも城が建っていたことすら知らなかった者達、なぜか助けたはずの亀まで参加して、大工への罵詈雑言を投げつけています。
「大工を殺せ! いや、殺したら俺達が捕まってしまう。自殺へ追い込むんだ!」
その言葉に、みんなが大声で賛同。大工は恐ろしくなり、事情を説明しようとバルコニーに姿を見せました。
「みんな、待ってくれ。そもそも建物を作るというのは」
「知ったもんか、やっちまえ!」
外の者達はお城を崩そうと丸太や金槌で叩きますが、そこは腕の良い大工の仕事。びくともしません。次第に、外の者達の怒りが増幅しました。
そのうち、怒れる群衆の中にいたひとりの猟師がおもむろに銃を撃つと、銃弾は一匹のキツネに命中し、キツネの口からはどんぐりが転がりました。
「ごん、お前だったのか」
お城の中に大きなつづらと小さなつづらと打ち出の小槌と三枚のおふだと金のオノと銀のオノが投げ込まれ、おじいさんが飼い犬の遺灰をばら撒き、大きなかぶは抜けなくて、実は美しい白鳥だったとおもいきや、ウサギと亀がかけっこをしました。
赤鬼が泣いているところに少女が売り物のマッチをすっていたら、三匹のこぶたが大きな豆の木と人魚姫と裸の王様にカチカチ山で恩返し。
「ごん、お前だったのか」
「お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな」
「絶対にこの箱を開けないでくださいね」
「あなたが落としたのはこの金のオノですか? それとも」
「ごん、お前だったのか」
「オオカミさん、どうしてそんなにお口が大きいの?」
「ここほれワンワン」
「ごん、お前だったのか」
「枯れ木に花を咲かせましょう」
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは、ごん、お前だったのか」
「お腰につけた金のオノ、枯れ木に花を咲かせましょう」
「ごん、お前だったのか。ごん、お前だったのか。ごん、お前だったのか……」
阿鼻叫喚の地獄絵図。もはや話が通用する状況ではなく、大工はどうすればその場が収まるのかを必死に考えます。
すると、空から謎の強烈な光が差し込み、お城を包み込みました。その光に反応するように、お城の大黒柱に使われていた金色に光る竹が割れ始め、中から美しい女の子が現れると、女の子はそのまま光に導かれるように月の使者と共に旅立ってしまいました。
さて、大黒柱だった光る竹が割れてしまったお城。重さを支えきれなくなり、やがてガラガラと崩れ始めてしまいます。
大工は押しつぶされて死んでしまい、外にいた者達も何人かは巻き添えに。
そうしてお城は全て壊れてしまい、みんなの望みは叶ったものの、元の住民達は路頭に迷ってしまいました。その後自分達はどうすればいいのかを全く考えていなかったのです。
そこでみんなは、押しかけるような形でシンデレウ姫のお城へと強引に住み着いてしまいました。
すると、老人のひとりが言いました。
「この城、ラプンシェルの塔に似てないか?」
(この物語はフィクションです。実在の人物・組織・事件などは一切関係ありません)