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人気のない落語のネタに、新しいオチをつけてみる

ネタ

 

 

 上方古典落語のひとつに『算段の平兵衛』という噺がある。

 この噺、民衆や噺家からの評価があまり芳しくなく、支持を得ることがないまま時の流れとともに演じ手を失い忘れ去られた噺だったのだが、今年鬼籍に入った稀代の天才落語家であり上方落語復興の立役者、三代目桂米朝によって引き揚げられ現代に復活した。
 なぜ『算段の平兵衛』は不人気だったのか。それほど酷い噺だったのか。その噺の概要は、簡単に記すと以下である。

 庄屋にはお花という妾がおり秘密で囲っていたのだが、その存在を嫉妬深い妻に知られてしまい、やむなくお花に手切れ金を渡して別れることになる。
 さらにお花を村から追い出すことを避けるために、人間関係の仲裁や秘密の問題解決に定評があることから「算段の平兵衛」と呼ばれていた男にお花を娶らせた。
 しかし、平兵衛はお花が渡された手切れ金をサイコロ博打などに費やしたため、夫婦はすぐに着るものに困り食うに事欠く貧困に見舞われる。
 そこで平兵衛はお花に美人局をさせて庄屋から金をまきあげようとしたのだが、その最中で誤って庄屋を殴り殺してしまう。
 困った平兵衛は機転を利かせ、庄屋の死体を庄屋の家の前に持って行き、玄関越しに庄屋の声色を真似て夜遅く帰宅したことを妻に謝罪する。
 怒った妻は庄屋に「首を吊れ」と言い放ち、その一言を待っていたとばかりに平兵衛は庄屋の死体の首を吊るしあげた。
 吊るされた死体を見て庄屋が本当に自殺したと思った妻は、このままでは村での体裁が悪いので何とかしてくれと平兵衛に頼み、25両を渡す。
 ちょうどその頃、隣村では盆踊りの練習が行われていた。平兵衛は庄屋の死体を担ぐと隣村に向かい、死体を踊らせて練習の邪魔をする。
 怒った隣村の者達は庄屋の死体をリンチ。ボロ雑巾になった庄屋の死体を見て自分達が殺してしまったと勘違いしてしまう。
 隣村の者達はなんとか問題を解決すべく平兵衛に25両を渡して相談する。平兵衛は隣村の者達に庄屋の死体をこっそり崖から落とさせると、その光景を庄屋の妻に遠くから目撃させた。
 庄屋の妻にとっても、隣村の者達にとっても、庄屋は誤って崖から落ちて死んだということになり、巧みな「算段」によって平兵衛は庄屋殺しの罪を免れたどころか50両を手に入れることまでできた。
 ところが、そんな平兵衛を大胆にもゆすっている者がいた。盲目の按摩師・徳の市である。
 いろんな人間の秘密を握るあの平兵衛が恐れているということで、村の者が徳の市に事情を訊いたところ、盲目の按摩師はこう答えた。
「昔から、盲平兵衛に恐じずと言うて……」。

 

 「盲平兵衛に怖じず(めくらへいべえにおじず)」というこのサゲ(落語に於けるオチのこと)、ことわざのひとつである「盲蛇に恐じず(めくらへびにおじず)」をもじったものであり、「へび」と「へいべえ」の響きを引っ掛けた洒落なのだが、まあつまらない。
 『算段の平兵衛』を不人気落語たらしめている最大の要因は、この面白みのないサゲにあるのだ。

 まずこのサゲがドイヒーな理由のひとつとして、最後の最後で何の脈絡もなく唐突に出てきた按摩師が取ってつけたような形でオチをかっさらっていった部分に注目したい。
 まさに噺を落とすためだけに現れたキャラなので、最終回に突然新しい敵キャラが現れて「平兵衛の算段はこれからだ!次回作にご期待ください!」とシメているのと大差ないのである。
 そしてひとつ、「めくら」という言葉が現代に於いては視覚障害者への差別用語とされているため、テレビやCDはもちろん、舞台でもなかなか披露できないこと。
 実際、この落語を復活させた本人である桂米朝も演じる際にはオチの台詞まで言わず、平兵衛をゆする按摩師がいるということを語るのみに留めて噺をかなり強引に終わらせている。
 現代で演じられる際、庄屋の死を不審に思った役人が、事件を解決するべく平兵衛に良い算段を求めるというサゲも存在するが、聞いているとどうも役人が平兵衛の家を訪れるくだりで客にオチを感付かれてしまう気がする。しかも悪役の平兵衛にとってほぼハッピーエンドだ。
 まだまだある。「盲蛇に恐じず」ということわざが現代では全く使われていない過去の遺物なので、今となってはサゲを聞いてもピンとこない人が多い。差別用語を含んでいるので後の世代に伝承されにくいのかもしれない。
 身も蓋もないことを言ってしまえば、庄屋の死体を平兵衛がいじり倒すというシナリオ自体、死にネタの扱いに敏感な日本に於いて、死者への冒涜という面で生理的嫌悪感を催す人が非常に多い設定でもある。
 そういった要素を全部考慮から外したとしてもこのサゲ、そもそもが上手くもなんともない力技のダジャレだ。
 大衆からの支持を得られず廃れかけたのも宜なるかなといった悲惨な噺、それが『算段の平兵衛』なのである。

 人間界の不人気代表である僕はこの不人気落語『算段の平兵衛』の存在を知ったとき、共感を覚えると共にこの噺にもっと上手なサゲを設ければ、みんなに愛される噺として生まれ変わるのではないか、と思った。
 そこで僕はこの不人気落語に、好感度がガンガンズンズングイグイ上昇しちゃう新しいサゲを作ろうと考えた。サゲが演者や作家によって改変されるのはそう珍しいことではない。

 しかし、大きな問題がある。僕は落語を自分で作ったことがないのだ。今回は創作落語をいちから作るのでなく、既存の噺のサゲだけを作るのだとはいえ、好き勝手やって僕の知らない落語の作法などに引っかかるわけにはいかない。
 とはいえ、僕は落語を作った事こそないものの、かなりのにわかではあるが落語は好きである。そこで先人の知恵を授かり、新しいサゲを作る参考とさせてもらうことにした。

 今は亡き二代目桂枝雀という、説明の必要がないほど有名な落語家がいた。
「緊張と緩和」理論に代表されるように、笑いを理論的に解体して調べあげる求道者の側面を持っていた枝雀によると、数百種類ある落語のサゲは、おおまかに分けて「ドンデン」「謎解き」「へん」「合わせ」の四つのパターンに分類されるのだという。
 どの噺がどのパターンにカテゴライズされるのかは噺そのものの構成をさらに細分化した結果なので、ひとつの噺であれもこれもというのはいささか強引ではあるのだけれど、あえて今回はその四つのパターンそれぞれを応用して、『算段の平兵衛』に四種類のサゲを作ってみたい。

 

1、「ドンデン」

 所謂どんでん返し。意表をつくオチ。
 安定していた話をあえて不安定なほうへひっくり返し、その反動で笑いを起こす。
 枝雀の挙げた例として、『愛宕山』という噺からかなりざっっっっくりと簡単に引用する。

 旦那が愛宕山の崖の下に投げた小判を手に入れるため、傘を使って崖から落下する一八という男。 
 ↓
 小判をゲットしたものの、崖上までの戻り方を考えてなかった一八。自分の長襦袢でヒモを作り、斜面に生えた竹に引っ掛けて、見事崖上まで戻ってきた。
 ↓
 旦那「えらい奴だ。で、小判はどうした?」 一八「崖の下に忘れてきた……」 

 

2、「謎解き」

 「ドンデン」とは真逆に、不安定だった話がラストで上手くまとまったり、文字通り作中で提示された謎がオチで解けたりする。
 不安定だった話が、安定に変わる反動で笑いを起こす。
 枝雀の挙げた例として、『皿屋敷』という噺からやはりざっっっっくりと引用する。

 廃屋敷の井戸に現れては一枚、二枚……と皿を数えるお菊の幽霊。その数を最後の九枚まで聞いた者は死に至るという。
 ↓
 やがてお菊の姿見たさに毎日たくさんの見物客が井戸へ訪れるようになるが、その日、なぜかお菊は十八枚まで数えた。
 ↓
 なぜ十八枚も数えたんだという客にお菊が答える。
「最近客が多くて忙しくて休みをとりたいので、明日の分まで多めに数えときました」

 

3、「へん」

 終始、話が不安定な流れのまま、その不安定さで笑いを起こす。文字通りへんな噺である。
 枝雀の挙げた例として、『池田の猪買い』という噺からまたまたざっっっっくりと引用する。


 淋病に悩む男が「猪の肉が効く」と知り、狩人の住む池田までの道のりを教えてもらうが、物覚えが悪く農民たちに道を訪ねては困らせる。
 ↓
 狩人に会えた男は無茶苦茶な理屈で無理を言って、渋る狩人に新しい猪を狩らせようとするが、狩りの最中にも狩人に無茶苦茶な質問をしてイライラさせる。
 ↓
 気絶した猪を見て「あの猪は新しいのか?」とトンチンカンなことを訊ねた男に狩人は激怒。狩人は猪を目覚めさせ走らせて逃がしたあとに「ほらあんなに新しい」と言った。

 

4、「合わせ」

 「へん」とは逆に終始、話が安定したまま進む。上手いこと話が噛み合い、理にかなっているおかしさから笑いを起こす。
 枝雀の挙げた例として、『蔵丁稚』という噺からご多分に漏れずざっっっっくりと引用する。


 芝居好きな丁稚の定吉は買い物を任されるたびに芝居小屋に寄り道していた。それを旦那に咎められ、嘘をついて乗り切ろうとするものの見破られてしまう。
 ↓
 蔵に閉じ込められた定吉は、空腹を紛らわすべく大声で『忠臣蔵』の芝居をする。それを聞いていた女中が、このままでは定吉が切腹するのではと勘違いしてしまう。
 ↓
 女中から話を聞いた旦那は定吉が空腹でおかしくなったと思い、急いで蔵へ食事を持っていくが定吉は『忠臣蔵』の真っ最中。
 旦那「御膳(御前)!」 定吉「待ちかねた……」

 

 本当はもっと複雑なのだけれど、ここではかなりシンプルに、噺の始まりからサゲまでが、安定→不安定(ドンデン)、不安定→安定(謎解き)、不安定→不安定(へん)、安定→安定(合わせ)としておく。
 『算段の平兵衛』をこの4つのいずれかに分類するとなると、あくまでサゲ付近だけを切り取って考えたならば、「なぜか平兵衛が盲目の按摩師を恐れている」という謎が提示され、「それは盲平兵衛に怖じず()だから」という解答も提示された面から考えると「謎解き」に該当するのかもしれない。実際はクソダジャレを聞かされただけで謎は何ひとつ解けてないのだが。
 しかしこれはあくまでサゲだけを切り取った話であり、話の全体を考えるとそもそもこの4パターン全部を『算段の平兵衛』に適用するのは困難というか、そのままでは不可能に近い。理由は単純に『算段の平兵衛』のサゲ以外の筋によるものだ。
 「どんでん」と「合わせ」がサゲまでの筋が安定していて、「謎解き」と「へん」が不安定であるように、サゲ以外の筋が安定しているか否かを考慮しないとそれぞれのオチが作れない。
 庄屋の死体が踏んだり蹴ったりされる状況そのものはスラップスティックタッチであるけれど、平兵衛が次々上手く算段していく部分など、割と破綻することなく話が進んでいるので、おそらくサゲ以外の筋が「安定」しているだろう『算段の平兵衛』は、「どんでん」「合わせ」はともかく、「謎解き」「へん」のように「サゲ以外の筋が不安定であること」が条件となっているサゲなどは、前提の段階で適用しづらいのだ。
 では『算段の平兵衛』は「どんでん」と「合わせ」のどちらかなのかと言うと……うん、「ダジャレ」かな。
 そういった意味では徳の市の存在は話を不安定にさせる要素として働いているのかもしれないが、そもそも強引なオチのために唐突に出てきたいけ好かないキャラなので、「謎解き」「へん」を作る場合でも、できれば存在をなかったことにしたい。というか徳の市を出してしまった状態であのダジャレ以外のオチを考えるのはキツい。
 もっとも『算段の平兵衛』のサゲまでの筋が安定している、というのはあくまで僕の解釈であり、人によっては酷く不安定な話に映るかもしれない。なんたって死体がしっちゃかめっちゃかになるのだから、見ているこっちの精神が不安定になってしまう。もし『算段の平兵衛』のサゲ以外の筋を不安定としたならば、あのダジャレによって間違いなく「へん」に該当する。
 そこでサゲ以外の筋に「不安定さ」を醸すためも兼ねて、サゲ以外の部分にちょっとだけ手を加えてもいいことにした。強引さに拍車がかかったがどうか見逃してほしい。

 というわけで、以下の四席が新しく生まれ変わった不人気落語、『算段の平兵衛2015』である。上手いか下手か、ウケるかウケないかは知ったことではない。徳の市は不思議な力で消えたものとする。

 

 『算段の平兵衛2015』~ドンデンVer.~

 (中略)

 庄屋殺しの罪を免れ、50両もの金を手にした平兵衛だったが、平兵衛のギャンブル癖を恐れたお花は、半分の25両を自分で管理することにした。

 すると案の定、平兵衛は一晩もしないうちに、25両を全額、サイコロ博打ですってきたのだ。

 さらに金を要求する平兵衛に、お花は25両を渡す条件を突きつけた。小遣いではなく、依頼料としてなら渡してもいいのだという。

 お花は言った。

 「博打好きなダメ亭主を殺したときの、良い算段を教えてくれないかしら」。

 

 『算段の平兵衛2015』~謎解きVer.~

 (中略)

 こうして庄屋殺しの罪を免れ、50両の金を手にした平兵衛。全て完璧だと思っていたがある日、役人が平兵衛の家に訪れた。

 「平兵衛、お前を庄屋殺しの罪でひっ捕らえてやる」

 驚く平兵衛。弁解する暇もなく、すぐにその身を取り押さえられた。

 「どうしてや。俺の算段は完璧だったはずやろ。どこで足が付いたんや」

 しおらしくなった平兵衛のその疑問に、役人は答えた。

 「そらお前が、さんざん庄屋の仏さんを弄んだからや。幽霊ならともかく仏さんにはまだ、足が付いとる」

 

 『算段の平兵衛2015』~へんVer.~

 (中略)

 実は怖がりな平兵衛は、庄屋の死体を算段のために弄ぶ度に、震えた声でナンマンダブナンマンダブと泣き続けていた。

 (中略)

 こうして庄屋殺しの罪を免れ、50両の金を手にした平兵衛。しかし心の中では自らの手で殺め、死体を弄んだ庄屋の呪いが訪れやしないかとビクビクしていた。

 そしてある夜、眠っていた平兵衛は枕元に何かの気配を感じた。目を開けて見ると、そこには血まみれになった庄屋の霊が立っていた。

 「わあ、許してえな。ナンマンダブ、ナンマンダブ」「許してほしいんか。お前、ワシの言うこときくか」「何でも聞くから、許しとくんなはれ」

 すっかり怯えきった平兵衛に、庄屋の霊は言った。

 「このままだとワシは地獄に落ちてしまう。閻魔様との仲を取り持つ良い算段をくれんか」

 

 『算段の平兵衛2015』~合わせVer.~

 (中略)

 こうして庄屋殺しの罪を免れ、50両の金を手にした平兵衛。

 しかし、サイコロ博打では相変わらず負け続けだった。そんな平兵衛に、お花は不服そうに言った。

 「あんた算段は上手いんだから、いい加減丁半を当てるのも上手くなりなさいよ」

 平兵衛は悪びれもせずこう言い返した。

 「俺が考えるのが上手いのはせいぜい算段(三段)まで。それより上の問題に対しては全部、誤断(五段)になってしまうんや」

 

 以上、この話にサゲはない。
(この記事は過去に他サイトで掲載したものの転載です)

 

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