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もしも落語を三つ同時に演じたら

 

 

 ええっ、一時間半の持ち時間が急に五分になったですって!?

 今日は私、落語を三席ぶつつもりで来たんですよ。『まんじゅうこわい』と『子別れ』と『時そば』を。五分じゃ一席打てるかどうか……これじゃあせっかく楽しみに来てくれたお客さんに申し訳がない。

 なに、じゃあ五分で三席全部ぶてっていうんですか? そんなけったいな話がありますか。早口でまくしたてたって難しい話ですよ。

 落語っていうのはしっかりとした話の構成とか、喋りのリズムとか、そういったもんがありまして……五分じゃせいぜい一席ですね。

 なんですか? じゃあギャラは三分の一でいいなって、そんなわけにはいきませんよ! こっちは生活がかかってるんですから、そんな無茶言わないでくださいよ。

 わかりましたよ、五分で三席ぶてばいいんでしょ。三席いっぺんにぶちますよ。その代わりどうなっても知りませんよ!

 ええー、毎度ばかばかしい話をひとつ、いや三つ。いえ実はですね。今日はみなさんに落語を三席お聞かせするはずだったんですが、持ち時間が急に五分ぽっちになっちゃいましてね。でたらめな話ですが三席いっぺんにぶつことになりました。

 あっ、もうあと四分三十秒しかない。いや、私だってお客さんに粗末な話は訊かせたくないですよ。でも言っときますがこの話、相当な無茶ですからね。

 時間がないから巻いていきますね。昔々、大五郎という大工がいたんですけれど腕は良いのに怠け者の大酒飲みでいっつも嫁と子供を困らせていて、ついに愛想が尽きた嫁とケンカして別れることになって、それからえっと。

 他の大工と『自分は何が怖いのか』って話になって、オイラはトンカチで殴られるのが怖い、って当たり前じゃねえかそんなの。そこで大五郎は俺はまんじゅうと慰謝料が怖いって言ってだな、うん。

 ああ、あと三分半しかないじゃないか。すると大工のみんなが、大五郎を脅かしてやろうじゃないかってことで、大五郎が寝てるすきに枕元へまんじゅうみたいな大五郎の息子を大量に投げ込もうってことになって、なんだよ大量の息子って。

 そんで肝心の大五郎は嫁や子供と仲直りしたいから真面目に働くんだけれど、ひぃ、あと二分しかないのでスピードアップします。お皿が一枚足りな~い。ってこれ『皿屋敷』だった。す、すいません混乱していて。

 おっと、そうだ。『時そば』もやんなくちゃならなかったんだ。どこかでそばを出さないと……じゃあこうだ。おいおっ母、そばをご馳走するから、昔のことはこれで手打ちといこうじゃねえか。これがホントの手打ちそば。上手いこと言ってんじゃないよアンタ。

 おわぁ! あと一分!? まあ今はなんでも早いのが人気って時代なんでね! で、大量のまんじゅうが投げ込まれてそれを息子が全部トンカチで叩き潰して、大五郎がそのまんじゅうを全部美味しそうに食べて、その大五郎を息子がトンカチで叩き潰して、

 大五郎の立派なかすがいを、息子がトンカチで叩き潰して、大量のそばが怖くなって、大五郎の嫁さんがきて、それを息子がトンカチで叩き潰して。

 そしたら他の大工たちがお前全然まんじゅうを怖がってないじゃないかと言って乗り込んできて、それを息子がトンカチで全員叩き潰して、それからそれから……。

 ええっ、もう時間がないから『まんじゅうこわい』らしく熱いお茶で締めろって? 何を言ってるんですか、茶なんて出せませんよ。ですから先程も申し上げましたようにこの話……。

 最初から『無茶』にございます」

 

昭和元禄落語心中(1)

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