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牛◯石鹸BL

 浩文は今日一日の労をねぎらうため湯船に浸かっていた。
 子供思いの良きパパであること――を受け入れる生活に疑問を抱き始めてから、気が付けば息子のじゅんが大学に上がるまでの年月が経ち、なんだかんだで浩文は「良きパパ」でい続けることを完遂しつつあった。
 気が付けば白髪も生え始め、体力の衰えを感じて、気持ちだけをどこかに置き去りにしたまま歳を重ねてしまった。朝にゴミを出して会社へ通い、時々は帰りに酒などを呑みながら家に帰る生活も、加齢以外は何年も代わり映えがない。
 俺はどうしたいんだろう、どうすれば納得できたんだろう、そんなことを考えながら浩文が湯船の水で顔を洗っていると、突然浴室の扉が音を立てて開いた。
「誰だ、突然開けるんじゃない」
「俺だよ、父さん」
 そこに立っていたのは一糸まとわぬ姿をしたじゅんだった。すでに大人の男の様相が備わっていたじゅんの肉体は、程よく引き締まった筋肉に張りのある肌を携え、浩文の眼前で仁王立ちしている。浩文の視界が息子のムスコを捉えていた。
「じゅん、見たらわかるだろ。俺がまだ入ってるんだからお前は後にしろ」
「父さん、忘れたのかい。今日は父さんの誕生日だよ。だから今日は俺がお礼に父さんの背中を流してあげようと思って」
 誕生日――浩文はすっかり失念していた。いや、だいぶ前から『俺もいい歳だし、誕生日とかもういいだろう』と自らを祝おうとした家族に言い出し、それ以来思い出すことさえもなくなっていた。
 じゅんは覚えていてくれたのか。浩文はなんだか嬉しくなり、久しぶりに自らが「良きパパ」であることを誇りに思えてきた。
「そうか、じゃあお願いしようかな」
 浩文は浴槽からあがると、風呂いすに座ってじゅんに背中を向けた。
 じゅんは洗体用のタオルに牛◯石鹸を擦り付けて泡立てると、それを浩文の背中へと、なで上げるように優しくこすりつけた。
 その繊細なタッチに思わず浩文はビクッと身体を震わせる。
「おいおい、もっと激しく擦らないと汚れが落ちないだろ」
「そっか、父さんは激しいのが好みなんだね……」
 じゅんが程よい動きで浩文の背中を洗い始める。浩文はなんとなく、背中に舐るような視線を感じていた。
「それにしてもじゅん、お前もすっかりでかくなったなあ。筋肉もこんなにガッシリついて。小さい頃はどちらかというと貧弱な身体だったのになあ」
「たくましい男になろうと思ったのさ。そう、憧れの父さんのようにね……」
「へえ、俺に憧れていてくれたのか。それは嬉しいな。実は俺も親父、お前のおじいちゃんには密かに憧れていたんだよ」
「知ってるよ、父さんが爺ちゃんに憧れていたことは。そう、親子愛の枠には収まらないほどに……」
 じゅんの絶妙な動きに、牛◯石鹸が大量の泡を立てる。やがてじゅんはタオルの持っていた手は浩文の胸の辺りを捉えていた。
「お、おいおい。そんなところは洗わなくていいんだ」
「何を言ってるんだよ、今日は父さんの誕生日だろ。隅々まで綺麗にしてやるよ。ほら、牛◯石鹸は加水分解コムギ末を使ってないから安心して使っていいんだよ……」
 じゅんの手の動きはとても艶かしく、まるで柔らかな桃に触れるかの如く優しくて、浩文の老いた肉体を徒に弄ぶ。
 なにかおかしい、そう思いながらも浩文はじゅんのボディタッチに抗うことができず、お風呂でのぼせるのとはまた違う身体の火照りを感じ始めていた。
 やがてじゅんの手が浩文の怪しいところに伸びた。
「おい、じゅん、さすがにそこはやりすぎ……」
「何を言ってるんだい。そんなこと言いながら父さんの赤箱はもうこんなに炎上してるじゃないか」
 その部分は他のどこよりも泡の盛り上がりが激しかった。浩文は羞恥に頬を染める。
「父さん、俺が気付いてないと思ってたんだね。父さんがおじいちゃんのことを愛していたことに」
 浩文は目を見開いて、驚きの表情でじゅんを見つめる。
「な、なぜそれを……」
「やっぱり親子だね。父さんが爺ちゃんに向けていたような視線を、俺も父さんに投げていたのさ。爺ちゃんが父さんの想いに気付かなかったように、父さんも俺の想いに気づかずにいたみたいだけどね」
 息子にムスコを攻められながら息子からの突然の告白、混乱し始めた浩文を、じゅんは怪しい笑みを浮かべて見ていた。
「父さんはいつも俺の誕生日にホールのケーキを買ってきてくれたよね。でも俺は最初から父さんのホールに興味があったのさ」
「や、やめろ。もしも母さんにバレでもしたら……」
「何を言ってるんだ。これは親子、男同士の裸の付き合い、背中を流し合っているだけなんだ。それとも、バレさえしなければOKってことなのかい」
 浩文はまともにじゅんの姿を見つめられなかった。隔世遺伝だろうか、じゅんの姿にどこか、今は亡き父の面影が浮かんでいた。
 実の息子から与えられる快楽に、溺れていく浩文。こみ上げてくる泡、泡、泡。牛◯石鹸ならではのミルク成分とスクワランが浩文の身体も二人の関係もしっとりとさせていく。
「じゅん、これ以上は本当にもう……」
「ほら、昔から言うだろう? 牛乳セッ◯◯、良いセッ◯◯~ってね。ほら、ゴミ以外も出しちゃいなよ……」
「ああっ、じゅん……」
 このまま息子の罠に堕ちていく、そんな実感を抱く浩文。同時に、これまで感じていた心の空洞が埋まっていくのを感じていた。
 「さ、洗い流そ。」とは言えないほどに、二人の関係は闇に染まっていったのだ……。