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サブカルだらけの桃太郎

 

  昔々ある高円寺の1LDKに、おじいさんとおばあさんが同棲していました。結婚はしていません。

 おじいさんが山の隠れ家風カフェに、おばあさんが川へ一眼レフを持って日常を切り取りにいくと、川上から大きな桃がヴィレッジヴァンガードヴィレッジヴァンガードと流れてきたので、おばあさんの黒縁メガネがキラリと光りました。

「まあ、なんて飾りがいのある桃なのかしら。中をくりぬいて間接照明にして、あとでインスタグラムにアップしましょう」

 よくわからないお香が焚かれた部屋に桃を持ち帰って割ってみると、中から大きな赤ん坊が現れました。

「ねえナンシー(あだ名)、この子の名前、桃から生まれたから桃太郎っていうのはどうかな?」

「そのセンス、松尾スズキっぽい(笑)」

 それから桃太郎はすくすくと育ち、青春時代をオーケンに捧げたかいもあって立派な好青年になりました。ある日、桃太郎は二人に言いました。

「今日まで育ててくれてありがとう。実は俺、現代アートに目覚めたというか……たとえば『鬼退治』ってすごく、ファニーでスピリチュアルな感じがしない? 今度さ、犬と、猿と、キジと一緒に小劇団を組んでさ、鬼ヶ島でライブ型パフォーマンスをすることにしたんだ。監督は友達の金太郎に頼んであって、ちょっとアウトローなバイブスがするドキュメンタリータッチのショートフィルムを撮ってもらおうと思ってる。ゆくゆくはミニシアターで流したりしたいかな。まあそういうことだから、よろしく」

 桃太郎が指差す先には、マッシュルームカットの犬、ロッキンホースバレリーナを履いた猿、キューソネコカミの歌詞をブログに書いている最中のキジがいました。

「おば……ナンシーのきび団子あげたら、なんかみんなノリノリでさ」

 そして桃太郎は『(結構マイナーだからみんな知らないかも?w でも俺の中では)日本一』と書かれた旗をかかげて、鬼ヶ島へ向かうことにしました。

 途中、ロフトプラスワンでのトークイベントを終えた金太郎と合流。ショッキングピンクの腹掛けにはさすがの桃太郎たちもいささか引き気味です。

 こうして辿り着いた鬼ヶ島では、みうらじゅん的なタッチで描かれた鬼達が酒池肉林の宴で盛り上がっていました。

「人間が来たぞ! おい、なんだお前達は」

「待って! 鬼ヶ島にも綺麗な花咲いてるんだ~」

 ナンシーから譲り受けた一眼レフで桃太郎が鬼ヶ島の日常を切り取っていると、鬼のひとりが桃太郎の腰からぶら下がっている葉っぱに気が付きました。

「おい、お前その葉っぱ……いけないやつじゃないのか! 鬼ヶ島でそれはやめろ!」

「いいんだよ、これは。タバコのほうが有害なんだぞ。ほら、お前にもわけてやるよ。きび団子にたっぷり練り込んであるから」

 鬼が目を凝らすと、犬、猿、キジはなんだかうっとりしたような表情できび団子を食べていました。

「バカ、俺達はそんなの、むぐぐ」

 桃太郎が有無を言わさず鬼達の口にきび団子をねじ込むと、鬼達は全員陶酔状態、足元がふらふらに。

 そのタイミングを逃してたまるかと、桃太郎は手元にあったSTUDIO VOICEで鬼達を一気にタコ殴り、鬼達の顔は超芸術トマソンみたいになりました。

「うひひ、悪かっは。もう許してくりふひゃはゃはゃ」鬼達はついに降参。

 こうして桃太郎達は鬼ヶ島から金銀財宝、水タバコ、カラフルなマスキングテープ、プレーヤーもないのに買ったレコード盤などを持ち帰って幸せに暮らしましたとさ。

 

 

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