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ラップでBL書いてみた

 

 

「ついにこの日がやってきたか……」

 今日は高校生ラッパー大会の決勝戦当日だった。

 全国からラップスキルに自信のある高校生が集まって、即興でラップを披露してその技術を競い合うこの大会。相手よりも優れたフロウを見せ、会場をより盛り上げたものが勝者となる。

 東京代表として参加した俺、MCドラゴン(本名:田中一郎)は二年前、十六歳でこの大会に初参加し、見事に優勝を成し遂げた。

 小さい頃から親の影響を受けてヒップホップ漬けで育ち、勉強も恋もそっちのけで青春のすべてをラップの技術を磨き上げることに注いだ俺に、ラップバトルで敵うものはこの国にいない。

 ……はずだった。

「タイガーマンの野郎……」

 あの男の顔を思い出すだけで、普段はクールに努めている俺の感情が昂ぶり出す。

 昨年、俺は二連覇を果たすべく再度この大会に参加した。他の追随を許さぬ圧倒的パフォーマンスで会場を沸かせ、難無く決勝へと昇り詰める。ここまでは良かったのだ。

 頂上決戦で俺とぶつかったのは、今大会が初参加となる、タイガーマンと名乗る俺と同い年の福岡代表の男。無名のダークホースだった。

 俺の天下は短かった。タイガーマンもまた、とてつもないスキルの持ち主だったのだ。戦いは白熱した。結果、俺は僅差で破れチャンピオンの座を明け渡すこととなる。

 それ以来、俺の目的はタイガーマンを倒すことただひとつとなり、ネット上でタイガーマンのパフォーマンス動画を何度も何度も再生し研究、さらに血の滲むような訓練でラップのスキルを磨き上げ、あの屈辱から一年、三度目の参加となるこの大会で、俺はまた決勝の舞台を踏むことになったのだ。

 もちろんその相手は……タイガーマン。あの衝撃の優勝以来、高校生ラッパー界隈で一気にカリスマへと押し上げられたこの男の鼻を、俺がへし折る。そして敗者の哀しみを余すことなく味わわせる。

「覚悟してろよ、タイガーマン」

 DJが俺の名前を呼んだ。俺は高鳴る胸を抑えながら、ステージへと足を運ぶ。目の前には、あの忌まわしきタイガーマンが、いつものいけ好かないニヤケ面を浮かべて俺を嘲笑っている。王者の余裕。バカが。俺がすぐに引きずり下ろしてやる。

 重低音と共にステージが揺れ、ついに勝負が始まった。先攻はタイガーマン。

 さあこい、裸の王様――俺の一年の集大成を見せてやる。

 

「ヘイ、また懲りずにきたのかMCドラゴン もう気付いてんだろ お前はオワコン

 忘れちまったか去年の醜態 ここにはないんだお前の舞台

 お前は結局抜け出せない負け犬 その横で俺が抜け駆けして先行く

 この最強のラップにひれ伏しな そしてお前は何もかも失う カモン」

 

「調子に乗んなよタイガーマン 今日からは俺がナンバーワン

 その偉そうに伸びた天狗っ鼻 でもスキルの幅 去年のまま

 俺はラップの訓練一年中 そのフロウはまるで機関銃

 負け犬の牙をあなどんじゃねえぞ すなわちお前はここでジ・エンド」

 

「熱くなれねえよお前のラップ ラップでくるんで温めなおせ

 それよりもっとすごいもん聞かせるから 耳かっぽじってよく聞きな

 こいつは俺の最終兵器 もう止められねえ心のブレーキ

 実は俺 去年のあの日から お前のことが好きなんだ」 

 

「Yo タイガーマン お前何言ってんだ オツムがついにイッてんか

 このタイミングでどうして告白 すんだお前 みんな口パクパク

 これってまさか何かの戦略? だとしたらなんて小狡い性格

 て ていうか真面目に勝負しろ 俺は全然動揺してねえよよよ」

 

「いきなりの告白アイムソーリー でも信じてほしい 俺は本気

 すなわち俺はお前にゾッコン いかれちまったぜ ハートにロックオン

 脳裏に焼き付いたお前のフェイス 乱されちまった俺のペース

 何をしても全てが上の空に あれから毎晩お前でオナn」

 

「そこから先は言わせねえシャラップ お前はそろそろお口にチャック

 ガッツリ伝わったお前の本気 だから俺も返すぜ本気で

 そもそも二人はメンズとメンズ よくてもせいぜいベストフレンズ

 お前の気持ちは嬉しいけれど やっぱり困るんだぜこういうの」

 

「おいドラゴン何ビビってんだ お前は名ばかりのチキン野郎か

 もう気付いてんだろお前だって 本当は俺のこと好きなんだって

 目は口ほどに物言ってんだ お前は俺にラブ・ミー・テンダー

 お前の熱く濡れた瞳が 俺のこの胸を撃ちぬくトリガー」

 

「バ、バカ バカバカ お前はバカか お前はバカバカ バカなのか

 でも気付いちまったぜ自分の本心 だったらもう偽らずに懇親

 仮にお前を受け入れたとして お前はどうせすぐ俺を捨てる

 だって俺は嫉妬深くて 『一日一回は「好き」って言って』

 そんなワガママをお前に要求 これに付き合えるのかなり上級」

 

「心配無用 俺は純情 生まれた頃から純愛仕様

 すでに恋はライツカメラアクション だったら勢いで行くっきゃないっしょ

 ベッドで困るぜ目のやり場 飲み込め俺のエクスカリバー

 恐れる必要は何もナッシング だからさあ俺の胸へダイビング」

 

「なんてこったいオーマイガー 涙で見えないんだ前が

 でもこの出会いはきっとデスティニー 愛はすぐそばにあるんですってねぃ

 今からお前の胸に飛び込むから お前は俺を強く抱きしめろ

 こんな結ばれ方はなんか変だ でも今すぐお前とプチャヘンザッ」

 

 戦いを終えた俺達は、大観衆の見守る前で熱く、強く抱き合った。大きな歓声が二人を包み、俺はタイガーマンの厚い胸に顔を埋めながら、これから始まる二人の未来にささやかな希望を見出していた。大会は普通に中止になった。