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きのこたけのこBL

 

 

「はあ、またやってしまった……」

 きのこの山は肩を落としてうなだれたまま部屋に着いた。今日は自分にとって因縁のライバルである「たけのこの里」との売上対決だった。

 自分より四年ほど後輩であるたけのことはあらゆる場面で衝突を繰り返してきた。売上では今日も負けてしまったけれど、そんなことはきのこにとってささやかな問題でしかない。

 きのこがこのように落ち込んでいるのは、たけのこに対する自分の対応だった。このところ、たけのこを前にすると緊張でそっけない態度を取ってしまうのだ。その理由もわかっている。きのこはいつの間にか、たけのこに惚れてしまっていたのだ。

 相手は後輩。しかもライバル。決して許されない恋だった。

 それでも、たけのこのことを思う度にその熱情と劣情できのこの身体と心は夜ごとに熱く火照り、チョコがトロトロに溶けてビスケットが露わになってしまうほどだ。

 溜息をつくきのこ。このままではいけない。恋心を封じ込めて、先輩として凛とした姿を見せなければならないのだ。

 そのとき、ドアのチャイムがなった。こんな遅くに客人かとドアを開けるきのこ。

 目の前にいたのは、落ち込んだ表情のたけのこだった。

「たけのこ、なんでお前がここに……」

「夜分遅くにすみません、きのこさん。実は相談したいことがあって……きのこさんじゃないとダメなんです」

 しおらしい表情を見せるたけのこに、きのこの胸がキュッと締め付けられる。思わずチョコが溶けかけたが、慌てて我慢した。

 しかし珍しい。あれほど生意気でプライドが高く、他人に弱みなど見せずグイグイ上昇志向をひけらかすたけのこが、自分にこうして頼ってくるだなんて。自分がどれだけたけのこを想っていても、たけのこにとっては自分など頼りない先輩、嘲笑の対象だとばかり思っていたのに……。

 不安はあるけれど、素直に頼ってきてくれたことは嬉しい。自分にもまだ、先輩として見てもらえる部分が残っていたのだ。

「どうした、またガルボのやつに営業妨害されたのか。全くあいつというやつは……今度ミルクチョコレート先輩に言ってきちんと」

「いえ、そうじゃないんです。それは問題ないんです。僕の悩みは、あなたのことなんです」

「なに、俺のこと? 俺が一体どうしたって……」

 その瞬間、たけのこが急にきのこを壁に押しつけた。いわゆる壁ドンという状況だ。きのこはわけがわからず、ただただたけのこの顔を見つめていた。

 たけのこの表情は先程とは打って変わって険しく、いつもよりビターな味わいを醸し出している。

「お、おいたけのこ。な、なんだ。どういうつもりなんだ」

「きのこさん。僕達はもう四十年近く一緒にいる。なのに、まだ僕の気持ちに気づいていないんですか。そして、自分の気持ちが僕に気づかれていないと、まだ思っているんですか」

「そ、それはどういう……」

 戸惑うきのこにたけのこはそっと、そのビスケットにメルティーキッスをした。

 このとき、きのこは全てを理解した。そうか、俺達は両思いだったのだ。しかしどうして、たけのこが俺みたいなやつのことを……。

「どうしてって顔をしていますね。僕がキシリッシュから嫌がらせを受けたとき、あなたがそっと助けてくれた。その頃から僕の心はプッカプッカになって、あなたに向かってフランフランなんです」

「そ、そうだったのか。でも俺達はライバルで、その……」

「今更何を言っているんですか。あなただってそうなんでしょう? 知ってますよ、僕を想って毎晩チョコを溶かしていることを……チョコは僕たちにとって一番大事なもの、それを溶かすっていうことは……Sweets!」

 何がSweets!だ。しかし、きのこの心は戸惑いとともに、確かに喜びが溢れていた。ああ、叶わないと思っていた恋が、実は一歩踏み出せば形になるものだったとは。

「僕の悩みは、あなたと一緒ですよ。夜ごとあなたを思う度に、僕のわたパチがブルガリアヨーグルトをもぎもぎフルーツしたくなるんだ!」

 するとたけのこは、きのこに抱きついて耳元で小さく「ハイレモン……」と囁いた。

「ま、待つんだたけのこ。そんな急に……」

「もう待てないんですよ。ほら、あなたのチョコだってもうこんなにマカダミア……」

 そうしてチョコを剥ぎ取られた瞬間、きのこのピンク色したふたつのアポロチョコが、アっというまにポロっと姿を見せた。同時に、外の空気へさらけ出されたきのこの山のきのこの山は、いささか左にカールおじさん。

「ふふ、きのこさんばかり楽しんでもらうわけにはいきませんね」

 そう言うなりたけのこは、おもむろにおのれのチョコを溶かしてみせた。きのこの眼前に叩きつけられる、たけのこの生まれたばかりの姿。

「きのこさん、見てください、そして触れてくださいよ。あなたを想ってこんなになった、僕の見事なチェルシーを」

 チェルシーというかセクシーなたけのこのそそり立つボディラインに、生唾を飲むきのこ。自分が罪悪感の伴った妄想の中でだけ思い描いていた姿が、手を伸ばせば届くほど目の前に……瞬間、きのこは自分のタガが外れる音を聞いた。

「くっ……お、俺は先輩なんだ。お前みたいな若輩者に、いいようにされてたまるか……!」

「ふふ、そんなに強がっちゃってきのこさん、きっといい声で鳴くんでしょう。ほら、ヨーグレットでヨーガれっと」

 どれだけ先輩風を吹かそうとしても、たけのこに触れられると敏感に反応するきのこの果汁グミ。こんなところでも俺はこいつにかなわないなんて!

「さあ、受け入れてください、僕のポッキーを!」

「ああっ、ポッキーは明治じゃなくてグリコ……!」

 二人の愛のヤンヤンつけボーは三日三晩続いた。それまでの敵対関係を洗い流すかのような求め合い。マーブルのごとく交わるチョコ、重なるビスケット、いかんともしがたい光景だった。スーパーカップも驚きのスーパーなカップルの誕生である。

 それから数年後、きのこの山とたけのこの里のダブルパックが発売された。それは、二人の愛の結晶だったとかそうじゃないとか……。

 

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