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百合映画アカデミー賞2020

 

 本記事は2019年に日本国内で劇場公開・配信された広義の「百合映画」の中から、筆者独自の視点で設けた各賞の受賞作を発表しています。

 

 この「百合映画」の定義が非常に難しいのですが、これはもう考えるだけきりがないので「私が百合だと認識したら百合」という極めて間口の広い解釈でやっていきます。

 

 

 

バキバキ屈折巨大感情賞

 

『よこがお』/監督:深田晃司

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 『淵に立つ』で高い評価を得た深田晃司監督の最新作。

 筒井真理子氏演じる訪問看護師の市子は訪問先の娘が何者かに誘拐され、その犯人が捕まったことから残酷な運命に巻き込まれてしまい、その運命に復讐するため別人へと生まれ変わり、ある計画を遂行していきます。

 

 ある人物が起こした誘拐事件をきっかけにして、次第に理不尽かつ絶望的な状況へと追い詰められていく市子。そんな彼女の運命の鍵を握り、物語に大きな影響を持つ百合キャラクターが市川実和子氏演じる基子。

 

 市子の訪問先に暮らすニートの基子は自分に理解を示し救ってくれた市子に対し憧れを超えた限りなく恋心に近い巨大感情を抱いているものの、市子には結婚を目前に控えたシングルファザーの恋人がいます。誘拐事件も件もあってこれまで以上に距離を縮めていく市子と基子ですが、互いに向けている感情は全く別の方へ向かっており、それは決して交わりません。市子とはまた異なる絶望が基子の中に蓄積していきます。

 

 やがて基子がとったある行動が、市子の運命を大きく左右してしまうのですが、そのの行動、及びそこにいたる基子の感情はとても巨大で、かつバキバキに歪んだものであり、しかしとても純粋で、そこに付随するとてつもない哀しみに、観客は「何故……何故……」と肩を落とすほかありません。 

 

 基子の行動もなかなかの衝撃を与えてくれるのですが、限界まで転がり落ちた市子の取った行動もまた、本作の百合要素にさらなる歪さを加えて強固なものにしていきます。

 

 理不尽で悲劇的な運命を通してひとりの人間の多面性を描き出す本作。今年公開の邦画の中でも抜きん出た純粋な傑作でもあります。

 

 

 

 

 

レズビアン島耕作

 

女王陛下のお気に入り』/監督:ヨルゴス・ランティモス

 

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 オリヴィア・コールマン氏が第91回アカデミー賞主演女優賞を受賞した本作は、絢爛豪華な百合愛憎絵巻。

 

 フランスとの戦争真っ只中のイングランド。健康状態がおもわしくない女王のアンは幼馴染であるマールバラ公爵夫人サラを側近に置いて、健康管理から性生活にいたるまで自身の面倒を見せています。サラのほうはといえば満足に政治を行えない女王から寵愛を受けているのをいいことに宮廷を取り仕切っていました。

 

 そんな宮廷に没落貴族の娘・アビゲイルが女中として務めることになってから女王とサラの強固な関係に異変が。出世欲の強いアビゲイルはあらゆる方法で女王へと取り入ってゆき、ついには同性愛関係にまで発展。宮廷内を猛スピードで出世していき、女王からの寵愛を賭けたサラとの争いが始まります。

 

 18世紀の英国を舞台に、嫉妬と欲望と謀略が工作するドロドロの愛憎百合バトル。情緒がいささか安定していない女王の振り子のような愛情を奪い合うサラとアビゲイルの関係はこれも一種の百合だなと解釈できそうですが、本作で百合的に強烈なインパクトを残すシーンのひとつといえば、アビゲイルを寝室付の女官に任命した理由をサラが女王に問い詰める場面。女王があげた理由というのが「あの娘は口でしてくれた」……。

 

 そう、アビゲイルはク×ニで出世したのです。女性を悦ばせて出世するといえば、団塊世代の男達に都合のいい夢を見せたビジネス漫画『島耕作』シリーズ。言うなれば本作は『レズビアン島耕作』。18世紀はどこも衛生状態がよくなかったでしょうし、その中でク×ニをするということは忠誠を誓う行為としてかなり大きかったのかもしれません。多分……。

 

 

 

 

カップリングが多すぎる賞

 

ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 永遠と自動手記人形』/監督:藤田春香

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 京都アニメーション製作の人気アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の劇場版はそれぞれに形の異なる百合の連打でした。

 

 武器として戦うことしか知らずに育ち、先の大陸戦争で両腕と愛する上司を失った元少女兵のヴァイオレット・エヴァーガーデンは、義手をつけて手紙の代筆業『自動手記人形』として働くことになり、そこから多くのことを学んでいきます。

 

 初の劇場版となる本作は、貴族の娘・イザベラの教育係として派遣されたヴァイオレットがイザベラの通う女学院に通うことになるところから物語は始まります。最初はヴァイオレットを疎ましく思うイザベラでしたが、次第に二人は髪を結び合ったり一緒にお風呂に入ったり同衾したりと距離を縮めてゆき、上のポスターみたいな関係になってしまいます(雑)。

 

 やがて明らかになるイザベラの過去。本作はヴァイオレットとイザベラの関係にスポットを当てた女学院パートと、そこから数年後、身寄りのない少女のテイラーを中心にしたパートの二部作と言ってもいい構成になっているのですが、それぞれのパートにパターンの違う上質な百合が揃っており、カップリングの豊洲市場

 

 女学院パートはやっぱりイザベラとヴァイオレット。本作の百合ショットの白眉とも言えるのが舞踏会での美しいダンスシーン。タキシードを着たバリイケ騎士姫と化したヴァイオレットとイザベラの見事な社交ダンスに、私達はただただ感動のため息を漏らすばかり。またこのパートにはもうひとつの「百合」が出てくるのですが、そこは見てからのお楽しみ。

 

 次いでテイラーのパートでは、上質の「おねロリ」と「姉妹百合」が詰まっており、涙腺崩壊は必死。高品質の映像・音楽・演出・キャラクター・シナリオでお腹いっぱいになるまで百合を堪能できる一作です。来年公開予定の完全新作劇場版にも期待しましょう。

 

 

 

 

 ネットフリックス賞

 

パーフェクション/監督:リチャード・シェパード

 

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 ネットフリックス独自コンテンツが百合作品の宝庫だということはご存知でしょうか。もっともクオリティはかなりピンキリではあるのですが……。

 

 昨今は映画賞にも配信限定コンテンツがノミネートされるなど、その影響力は無視できないものに。ネットフリックスの百合映画には「エリサとマルセラ」のような良作もあるのですが、私はあえてこちらをチョイスさせていただきました。

 

 確かな才能と約束された将来がありながら、母親の介護のために音楽学校を中退したチェリストのシャーロットは、復学のための選考会で出会った女性・リジーと意気投合。ヤリます。

 

 翌日、突如襲いかかった謎の体調不良と身体を這いずり回る虫にパニックへと陥るリジー。発狂したリジーは苦しみのあまり、自分の腕を切断し――というのが本作のあらすじ。

 

 本作はどんでん返しの要素を持った百合サスペンスホラーの面と同時に、ある人物からある人物に向けた壮絶な復讐劇の面も持っており、百合的にもホラー的にもインパクトの強いラストシーンは記憶に焼き付いて離れません。

 

 百合映画としてもホラー映画としても高クオリティの本作。動画配信サービスのオリジナル百合コンテンツのこれからの隆盛を期待していきたいですね。

 

 

 

 

 SEVEN DAYS WAR 戦う賞

 

ぼくらの7日間戦争/監督:村野佑太

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 今年最大のナーメテーター案件でした。口コミで「百合がある」と聞いていなかったら公開時期はおろか、アニメ化されていた事実さえ記憶から消えていたことでしょう。

 

 歴史オタクの高校生・守は近所に住む幼馴染の女子高生・綾に片思い中。しかし、綾は議員の父親の付添で急遽転校することに。地元を離れることを嫌がる綾に守は逃亡を提案。なぜか大して仲の良くないクラスメート達がこぞって集まり、使われてない石炭工場でお泊りすることに。そこに不法滞在で入国管理局から追われていたタイ人の子供が現れたことで、物語は物騒な展開へ――。

 

 ツイッターでも書いたのですが「ジェネリック新海誠」「インスタント細田守」と呼んじゃいたくなるほど、既視感の強いキャラクターと演出。「サマーウォーズのキャラ×君の名は。の雰囲気」といえばわかりやすいかもしれません。肝心のシナリオも素人目に見て瑕疵が多く、演出や作画も真似た割にはお世辞にも上手いとは言えませんが、それを補ってあまりあるのが本作の百合要素。

 

 これは百合オタクの思い過ごしというか百合オタク補正なのかもしれませんが、本作随一のある「百合シーン」だけ演出や作画の注力ぶりが他のシーンと異なっていた気がします。話の核心……とまでは言いませんが、重要な部分ではあるのでこれ以上はネタバレできませんが、ただただ言えるのは本作の百合爆発力は、今年公開されたアニメ作品の中ではトップレベルと言えます。

 

「数十年ぶりに新作が出たと思ったら百合だった」というのが昨今の百合映画界の風潮である気がします。気のせいかな? 気のせいですね。

 

 

 

 

大賞

 

ターミネーター:ニュー・フェイト/監督:ティム・ミラー

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 続編が発表されるたびに評価を落とし、リブートまでされたにも関わらず、それらを全部なかったことにしてまで、自らハードルを高めていくスタイルで造られた自称「正統な続編」は結果オーライな百合映画へと仕上がっており、今年の大賞とさせていただきました。

 

 コナー親子とT-800が審判の日を食い止めてから25年後、メキシコの工場で働く女性ダニーを突然、未来から送られてきたターミネーター「Rev-9」が襲いかかり、それをRev-9同様に未来から送られてきた強化人間のグレースが食い止め、二人は逃走。道中でサラ・コナーや老T-800らを連れて、未来を救う戦いへと巻き込まれていきます。

 

 あまり書きすぎると他社の原稿と内容がかぶってしまうのですが、やはり注目すべきはグレースとダニーのあまりにも百合な関係性。マッケンジー・デイヴィス演じる肉体派バリイケ女子のグレースが満身創痍になってダニーを守る姿、そして作中で明かされる二人の本当の関係性は各所から「実質まどマギと評されるのも納得。また、サラとグレースの会話にダニーが介入しようとしたときの冗談めかしたサラの台詞「パパとママはお話があるの」でノックアウトされた百合オタクも多いのではないでしょうか。

 

 すでにSNSなどでは百合絵師の方々によってダニーとグレースの濃密なファンアートが多く投稿されており、またグレースの夢女子になった女性客も多くいるのだろうと考えると、その百合波及力は見事なもの。百合業界を最もホットにさせた映画として文句なしの大賞でした。

 

 本作にはみんな大好きシュワちゃんも出演。百合という概念とは正反対の方向を行く筋肉のダンディズム人類代表が百合映画に出演するというハリウッドの特異点を拝むのは今がチャンスです。容赦なくロケットランチャーを撃ち、手榴弾をぶん投げる爆イケお婆さまも観られるよ!

 

 続編の製作を期待したいところですが、残念なことに興行収入があまりにも悪いということで、ちょっと絶望的かもしれません。グレースとダニーの新しい展開を観てみたい方々は今からコンテンツにお金を落とすか、ジェームズ・キャメロンに土下座をしましょう。

 

 

 

 

 今年公開された映画では他に「グレタ」「さよならくちびる」「最高の人生の見つけ方」「アナと雪の女王2」「シンプル・フェイバー」「コレット」「モンスターズ」「ある女流作家の罪と罰など百合要素の強い映画もあれば、「ミスエデュケーション」「ラフィキ ふたりの夢」などのL映画も多く、今後はチャーリーズ・エンジェル」「ロニートエスティ 彼女たちの選択」などの公開が控えています。2020年も百合映画の動向から目が離せません。