「それじゃおじいさん、私は川で洗濯をするから、絶対後ろから押しちゃいけませんよ。いいですか、絶対押しちゃいけませんからね」
おばあさんはおじいさんに釘を差しました。この日の川の水温は51℃。おばあさんはアチアチと言いながら洗濯をしていました。
なお、なぜかおばあさんはすでに水着姿でした。
「わかっとるよ、おばあさん。おや、川上から流れてくるあれはなんじゃ?」
おじいさんが動いた瞬間、足がおばあさんの背中にぶつかり、おばあさんは川の中に突き飛ばされてしまいました。
「あっ、あぢゃぢゃぢゃ! 熱いっ、ああーっ! こ、殺す気かー!!」
たまたま用意していた氷を身体に塗って事なきを得たおばあさんは、ドンブラコと流れてきた生煮えの巨大な桃を拾うと、二人で桃を割ってみることにしました。
「桃の中身はなんだろなゲーム!」
そう言うと桃に丸い穴を開けたおじいさん。おばあさんはそこにおそるおそる手を突っ込みました。
「ええ~、ちょっと怖いのう……あっ、なんか温かい。これなんか温かいぞい。うわー! 動いた! 今動いたって! これ絶対ダメなやつでしょ! わー噛んだ噛んだ! 今噛んだよ! 生き物系はホント駄目だってもー!!」
二人は桃の中にいた生き物……赤ん坊に桃太郎と名づけました。桃太郎はスクスクと育ち、ある日二人に言いました。
「これから鬼退治にいってきます」
「そうかい。それじゃこれを持っていきなさい」
二人はたくさんのきびだんごが入った袋を桃太郎にわたしました。そのうちひとつには大量のワサビが仕込んでありました。
鬼ヶ島へ向かう途中、一匹のイヌがやってきました。
「桃太郎さん、きびだんごをください。そうすれば鬼退治へお供いたします」
「わかった。せっかくだしきびだんごを食べさせてあげるよ」
そう言って桃太郎はグツグツ煮えた鍋を持ってきました。中にはもちろんきびだんご。
「いやいや、おかしいでしょこれ! なんでこんな熱々……ちょっとー!」
すると、どこからかやってきたサルがイヌを後ろから羽交い締めにしました。桃太郎は鍋の中からよく煮えたきびだんごを取り出すと、イヌの顔に近づけました。
「ちょっ、待って! ヤバイってこれ! 俺イヌだけど猫舌なんだよ! ちょっ、待って待っ……」
熱々のきびだんごはイヌの顔をよけてサルの顔へ直撃。サルの顔はお尻のように真っ赤になりました。きびだんごはその後、スタッフが美味しくいただきました。
こうしてイヌ、サル、ワサビ入りを食べたキジを連れた桃太郎は、鬼ヶ島へと到着。
ところが鬼のルックスは完全にヤクザ。おまけにすさまじく強かったため、桃太郎達はビクビクしながら鬼の前に現れました。
「お、お前ら! おおお、俺達が退治してや……」
「あん? 誰が誰を退治するって? お前ら、ちょっとそこ座れ。正座しろって言ってんだ!」
桃太郎達は正座させられました。
「お前ら、俺達が誰だかわかって言ってんのか? おい、そこの白いの。お前が一番生意気なツラしてんな。ちょっとこっちこい」
鬼はイヌを指さしました。
「ええ~……ぼ、僕ですかぁ? いや、僕関係ないんですよ。桃太郎さんがきびだんごで、無理矢理、こう……」
「いいからこい! イヌならイヌらしく首輪でもしてろ。いや、鼻輪がいいかな。プレゼントしてやるよ」
鬼は一匹のクワガタを連れてきました。
「ちょっ、それ鼻輪じゃなくてクワガタじゃないですかー! ほんと、ちょっ、勘弁して下さいよー! ありえないでしょそれー! 自慢の鼻が効かなくなっちゃ、ちょっ、離し……あーだだだだ! あー! あー! ワオーン!」
気がつけば桃太郎とサルとキジはその場からいなくなっていました。
「おう、組長が今着いたっていうからよ。お前覚悟しとけよ。組長、お願いします!」
奥の扉が開くと、「大・成・功☆」と書かれたフリップを持った桃太郎達が姿を見せました。
イヌは一瞬だけ呆けた表情をすると、それから事態を飲み込んだかのように安堵の息を吐いてその場にへたれこみました。
「……んも~、本当に殺されちゃうかと思っちゃったじゃんかよー! あ、これテレビカメラ? こんなところに仕込んであったの!? ちょっとそれはわかんないってー! スタッフ頭おかしいんじゃないのー!? ホント、こういうの勘弁、もー! お前ら、ホントつくづくだよ!! え? 最後にカメラに向かって? せーの、大・成・功!!」
その後、桃太郎達の元へ視聴者から「子供が真似したらどうするんだ!」という苦情が届きましたとさ。
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