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もしも桃太郎が精神論だらけだったら

 

 

 昔々あるところに、おばあさんが「こうすればキレイになるんだ」と言いながら炎天下で水も飲まずに洗濯をしていると、川上からドンブラコ矯正ギブスを着けた桃が流れてきました。

 これは貴重な桃だと思っておばあさんが家に持ち帰ると、山からうさぎ跳びをしながら帰ってきたおじいさんはこう言いました。

「おばあさん、ちょっとこの桃をナタで切っておくれ」

「そんな、私には切れませんよ、こんな大きな桃」

「違うんじゃよ。切れないという姿勢だから切れない。鼻血を出して倒れようが切れるまでやる。そうすればこれから先、もう二度と切れないなんてことは言えなくなる」

 おばあさんが死にかけながら切った桃からは赤ん坊が生まれ、桃太郎と名付けられました。

 桃太郎はすくすくと育ちましたが、おじいさんは「もっと育て! 明日までに10cm身長を伸ばせ! 努力だけが成功を呼ぶんだ!」と言い続け、かえって桃太郎の成長は伸び悩みました。

 そんなある日、青年になった桃太郎におじいさんがこう言います。

「こら、桃太郎。鬼退治に行きなさい」

「そんな、俺には無理だよ鬼退治なんて」

「いやできる。ワシは昔、鬼退治に行って帰ってきた。できた人間がいるってことは無理という選択肢は存在しないということだ。ワシにできてお前にできない道理はない。行きなさい」

 それでも嫌がる桃太郎を、おじいさんはなにかのセミナーへ連れ回したり、ビデオを見せたりしました。すると次第に桃太郎の顔つきが変わり、気が付けば自分からノリノリで鬼退治へと向かったのです。

「桃太郎さん、お腰につけたきび団子、ひとつ私にくださいな」

 目の前からやってきたイヌ、サル、キジがそういうのできび団子をあげると、三匹が口をつけた瞬間、桃太郎が言いました。

「きび団子をもらったな。じゃあ一緒に鬼退治に行って命をかけてもらうぞ。なに、そんなの聞いてないって? お前達はみっともないと思わないのか? もらうだけもらって恩も返せないなんて、良心が傷まないのか? 育ててくれた親に、申し訳ないと思わないのか? 自分が不甲斐ないと思うなら、死ぬ気でなんでも取り組んでみろ!!」

 こうして鬼退治への道中、桃太郎による地獄のトレーニングが始まりました。毎日のシゴキでだんだんと塞ぎこむようになったサルに、桃太郎は「気分が落ち込むのは甘えてるからだ」と一喝。

 桃太郎達は両足を結んだまま海を泳ぎ、鬼ヶ島へとたどり着きました。

「さあお前たち、今こそ特訓の成果を見せる時だ! 合体!」

 そう言うと桃太郎達は組体操を行い、下からイヌ、サル、キジ、桃太郎の順番でタワーを作りました。
 組体操の特訓により圧倒的な『連帯感』『団結力』『チームワーク』を身に着けた三人に敵はいな――そこで不意にタワーが崩れ、下敷きになったイヌが死にました。

 戦力を失い怖気づくサルに、桃太郎は「考えるより動け!」と命じます。しかし鬼はめっぽう強く、傷だらけになったサルは命からがら逃げました。

「こらサル。なに撤退してるんだ。ほら、きび団子を食え!」

「む、無理です。もう身体はボロボロで、きび団子だけじゃとても……」

「傷なんて治ると思えば治る。病は気からだ。いいから食え。サルは人間と同じ種族だろ? 人間ってのは多少身体にガタがきてもガソリン入れりゃ動くもんなんだ」

「だ、だってもう限界……」

「車を見習え!!!!!」

 しかし、サルはそのまま息絶えてしまいました。サルの亡骸に駆け寄るキジに、桃太郎はこう言います。

「お前がだらしないからサルは死んだ。サルに対して申し訳ないという気持ちがあるのなら、これで鬼を倒して来い」

 そして桃太郎から受け渡されたきび団子型爆弾を口にしたキジは、「俺が悪いんだ俺が悪いんだ」とつぶやきながらそのまま鬼の元へと突撃しましたが、辿り着く前に団子が爆発してしまいました。

「くそっ、みんなやられちまった。でも大丈夫。『負けない』という気持ちがあれば負けることはないんだ。為せば成る、俺はできる。俺はできる。俺はできるー!!」

 できませんでした。鬼たちの圧倒的な数の暴力に、桃太郎はあっさりとやられてしまいます。

 桃太郎達の末路を聞いたおじいさんは、若者達の根性を鍛えなければと思い、徴兵制を主張しはじめましたとさ。

 

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