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ブラック企業だらけの桃太郎

 『川での洗濯スタッフ(幹部候補)大募集! 一気に大量50名採用! お年寄りが元気に活躍するアットホームな職場です』

 広告に惹かれて入社したおばあさんを待っていたのは、月180時間の残業でした。

 おばあさんが川で働き始めて半年ほど経った頃、川上から大きな桃がバーミヤンバーミヤンと流れてきたので、おばあさんは精神科にいく決意をしました。しかしそれはおばあさんが過労から見た幻覚ではなかったのです。

  持ち帰った桃を割ってみると、中から赤ん坊が生まれたので、桃太郎と名づけました。おじいさんは鏡に向かって「今日も一日がんばるぞい!」と連呼していました。

 たくましい青年に育った桃太郎は、おばあさんに言いました。

「おとぎ話に新たな『やりがい』を創造し、この世界に『貢献』したいーー。ONI TAIJI is HAPPY。そんな気持ちから私は『まごころ鬼退治』を提案することにしました」

 おばあさんからお手製のきびユンケルをもらった桃太郎は、「日本一の成長企業」と書かれた旗を持って鬼退治ビジネスを始めました。

 すると、向こうから会社のイヌ、サル、キジがやってきました。

「桃太郎さん。お腰につけたきび団子、ひとつ私にくださいな」

「考えが甘い。団子より甘い。私たちは団子のために生きているわけではない。鬼を退治したときのみんなの笑顔、それさえ食べれば生きていけるんだ。あとで私の作ったビデオを観て感想文を書きなさい」

 一ヶ月後には三匹の顔から表情が無くなっていました。

 鬼ヶ島に到着した桃太郎たちはすでに徹夜が三日目に突入。鬼たちの前で社訓を読みました。

「それじゃ全員復唱して! 『鬼を退治できて嬉しいです!』」

「はい! 鬼を退治できて嬉しいです!」

「『鬼を退治することが私たちの幸せです!』」

「はい! 鬼を退治することが私たちの幸せです!」

「『鬼を退治するためなら死ねます!』」

「はい! 鬼を退治するためなら死ねます!」

 桃太郎はドン引きをする鬼たちへいっせいに跳びかかりました。

「やったー! 今日も一日ずっと鬼を退治できるぞ! 嬉しい嬉しい! 嬉しいなあー!!」

 イヌはそう叫ぶなり誰もいない方向へ走り去って行きました。彼の目にはたくさんの白い鬼が見えていたのです。

「そもそも桃から人間が生まれるわけないだろ!!」サルは泣きながら昔話を否定し始めました。

 キジは桃太郎からの電話に出なくなりました。

 すると、鬼たちがついに音を上げました。

「わかったわかった、俺達の負けだ。もう許してくれえ」

 許しませんでした。無意味なサービス残業に突入したのです。鬼たちは必要以上に退治されました。

「今月の鬼退治ノルマはあと四十件! 達成しなかった者は即ドンブラコするからな!」

 そして桃太郎達は時給に換算すると最低賃金以下の給料を手に、いつまでも幸せに、とーっても幸せに暮らしましたとさ。

「はい! 私達は幸せです!!」

 

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