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悪徳商法だらけの桃太郎

  ういっす、久しぶり。急にごめんね、こんなところに呼び出して。いや~、桃ちゃんと久しぶりに話したいなって思ってさ。あっ、ほうじ茶2つお願いします。

 それにしても聞いたよ~。なになに、鬼が村を襲ってきて大変なんだって? その話聞いてもう居てもたってもいられなくてさぁ。桃ちゃんの身に何か起きたら、もう俺は心配で心配で。ほら、俺達同じバイト先で三ヶ月一緒に働いた仲じゃん? そうそう、大きいつづらにゴミを詰めるバイト。楽しかったよねえ。

 ははは、わかるわかる。どこも辛いもんねえ。そんでさ、桃ちゃん鬼退治いくの? 待って! 俺にはわかる。どうせ行くんだよね? ほら、桃ちゃん昔から正義感強かったからさ。みんなに優しいし。捨てられた子犬とか、罠にかかった鶴とか見捨てられなかったじゃん。それにおじいさんとおばあさんも心配でしょ? 大丈夫、俺は全力で応援してっから!

 えっ、俺は今何してるのかって? まあちょっとね。自分で言うのも何だけど、人のためになる仕事っていうか、幸せのおすそ分けね。いい鎖かたびら着てるなって? お目が高いね。今ちょっと羽振りがよくってさ。信じられないよ。俺、ちょっと前までは朝から晩まで意地悪じいさんにこぶをくっつける仕事してたんだぜ。それが今や昼間からこうして茶飲んでサボれるご身分。あっこれ職場には内緒ね。

 どうしてそんなに羽振りが良くなったかっていうとさ、ちょっと目覚めちゃったというか。他の人には感じ取れないものが……そう、「幸せ」、的な? ものを感じ取れるようになったというか。んっ? さっきからこの数珠が気になってる感じだね? やっぱり桃ちゃんはわかってるなあ。これね、『日本一宝玉』っていう特殊な数珠なんだよね。俺の幸せは、こいつを手に入れたことから始まったというべきかな。

 例えばさ、ほら。最近身体の調子が悪いとかない? ん? ちょっと痩せたんじゃない? あ、桃ちゃんは特に問題はないけど、おじいさんが腰を痛めて寝込んでいるんだ? やっぱりかぁ~。俺さぁ、わかるんだよね。桃ちゃんに会ったときにビビってきたよ。こう、悪いものっていうか、その時々の気の流れみたいな? やっぱそういうのってさ……”ある”んだよね。

 やっ、信じられない気持ちはわかるよ。俺も最初は、まさか、そんなぁ~って思ったもん。うんうん。うーんうん。でもさ、やっぱりそういうのが積もり積もって、こう運勢とか、身体とか、どんどん蝕んでいって。こないださ、浦島太郎のやつに会ったんだけど。な~んか悪い気が流れてたんだよね。そしたら結局あいつ、おじいさんになっちゃった。

 ほら金太郎っていたじゃん? そうそうあの病弱なやつだよ。あいつもこの『日本一宝玉』買ったんだけれど、それからたった半年、たった半年でだよ? なんと熊を相撲で倒して上にまたがれるまでにたくましくなってさ。この数珠のおかげで今じゃ毎日ハイシドードーハイドードーしてますって評判なんだよ~。

 興味ある? 興味出てきたよね? でもこれ、普通のルートじゃ買えないんだよね。なんたって、本当に効果があるから。選ばれた人にしか買えないの。ほら、一寸法師とか、わらしべ長者とか、成功してる人達がはめてるところみたことあるでしょ? ない? 俺はね、先輩から譲ってもらった。その先輩がすっげぇいい人でさ。色々面倒見てもらってるんだよね。今の仕事も先輩からあてがってもらったんだ。

 あ、気になって仕方ないって顔してるね。いいのいいの、わかるわかる。ちょうどさ、俺余分に持ってるんだよね。ほらこれ。ちょっとはめてみて。大丈夫大丈夫、試しにはめてみるだけだから……あっ、似合うじゃん。桃ちゃん超似合う。ほら、このデザインだとちょっとした手元のオシャレになるでしょ? 周りと差つけちゃうよこれ。見た目も運気も。

 ただこれさ、一本十万するんだよね。まあ高いよね。それだけ効くってことなんだけれど。でも、他ならぬ桃ちゃんのことだからさあ。俺が『本部』に話し合わせてもらって、今日は特別に三万でいいよ。どうかな? 桃ちゃん、なんかちょっと顔色も良くなってきたぞ。血行かな? これね。運気を上げるだけじゃなくて、肩こりとか腰痛とか、あとモテる、って報告もあったかな。

 ほら、桃ちゃんはまだ健康だからさ。いいかもしれないけれど。おじいさん、腰痛めてるんでしょ? そういう悪い気って、自分だけじゃなく周りも巻き込んじゃうものなんだよね。大事な友達にこういうことあんまり言いたくないけどさ、村が鬼に襲われたのも、もしかして……ってこともね。あるかもしれないじゃない。おじいさんとおばあさん、頑張って桃ちゃん育てたんだし、恩返しだと思ってさ、そろそろ楽にしてあげようよ。

 一本三万。桃ちゃんだけだよ? 本当なら俺、先輩に怒られちゃうんだから。すごく似あってるしね。うん。似合ってる。ははっ。ちょっと待って、今『本部』に連絡入れるから。……もしもし。あ、どうも。お疲れ様です……………………はい、わかりました。桃ちゃんおまたせ。ははは、やっぱり怒られちゃったけど、桃ちゃんのために何とかOKもらえたよ。んっ、まだ買うのを決めあぐねてる感じ?

 あとさ。こうして久々に会えたのも何かの縁だから。ちょっと見せたいものがあるんだよね。ちょっと待って……はいドン。これ、何の変哲もないただの大きな木製の玉に見えるでしょ? これね、巨大きびだんご像。その名も『おきび様』っていうんだけれど。花咲かじいさんの木を削って作った霊験あらたかな代物でさ。うちにも三つあるんだけど、ご利益が半端無いんだわ。うん。

 ほら、ちょっと触ってみて。なんか温かいなって思わない? こう、手の平と、胸が熱くなってくるっていうか。そうそう! やっぱり桃ちゃんセンスあるよ。「幸せ」掴むセンスあるわ。いやマジで。これはね、持ってるだけで闘志が湧いてくるっていうか、風向きを自分のいいように変えてくれるんだ。ほら、運気ってさ。どれだけいい方向に巡っていても、本人の気持ちが後ろ向きだと逃げてっちゃうわけよね。これは持ち主の気持ちをこう、高揚させて。心から幸せが漏れるのを防いでくれるんだよね。

 俺もこれを手にしたおかげでさ、何にでも挑戦しようと思うようになってきて。そしたら運気が付いてきてくれたんだね。かわいい彼女ができてさ。あっ、写真見る? どう、可愛いでしょ。かぐや姫って子なんだけど、俺みたいなイケてない男でもこんなに可愛い子と付き合えるんだもん。虚仮の一念なんとやらというか、「想い」の力ってバカに出来ないなって思ったよ。その想いを後ろから支えてくれたのが、この『おきび様』ってワケ。

 桃ちゃん、鬼退治行くんだよね? にべもないことを言っちゃうけどさ。桃ちゃん、間違いなく負けるね。だって鬼は強いよぉ? 怖いよぉ? 生きて帰れるかわかったものじゃないよ? 俺、こうして桃ちゃんと茶飲んで他愛もない話するの、これが最後にしたくないんだよ。残されたおじいさんとおばあさんも、きっと泣いちゃうよ。でもさ、『おきび様』があったら、もしかして、桃ちゃんの風向き、変えてくれるかもしれないじゃん。どう? ひとつわたしにくださいなってなったんじゃない?

 でもさ。やっぱりこれだけのものだとちょっと値が張るんだよね。えっとたしか、一体百万だったかな。いや、俺にはそれだけ出しても惜しくないって思う金額なんだけど、やっぱり桃ちゃんには厳しいもんね。だからさ、今回は桃ちゃんだけ特別ね。一体二十万でどうかなって。はは、ちょっとサービスすぎちゃったかな? 大丈夫、『本部』には話つけておくから。俺今月給料出ないかも。でも、大親友の桃ちゃんの命には代えられないもんな。

 じゃあさ、俺はちょっと『本部』に電話するから。ここ、この書類に名前とさ、カードの番号書いて、印鑑押しておいてもらえるかな? なかったら拇印でもいいや。おじいさんとおばあさん、きっと喜ぶぞ。……もしもし、はい、はい。実はですね……はい、はい。申し訳ありません。本当に、本当に申し訳ありません! 今回ばかりはどうしても……はい。ありがとうございます! ありがとうございます! 桃ちゃんお待たせ。おっ、書けたようだね。あとは拇印を押して……はい、ありがとね。じゃあ『日本一宝玉』と『おきび様』、ここに置いとくから。

 おっ、もう行くのか。いいっていいって。ここのお代は俺が持っておくから。おう、鬼退治頑張ってな。応援してるぞ。またお茶でも飲もうな。じゃあな! ……さてと、電話電話……あっ、もしもし。俺だよ俺。竜の子太郎だけど。久しぶり! いや聞いたよ~、全身にお経を書くことになったんだって?

 

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