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最初から全裸な走れメロス

 

 

 メロスは激怒した。必ず、邪智暴虐の王を除かねばならぬと決意した。メロスは村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮らしてきた。あと全裸だった。

 結婚式を控えた妹夫婦に衣装を買うために、メロスはシラクスの街へと向かい、服屋の店員に声をかけた。

「君、ちょっといいかな」

「はい、御用でしょうかお客さ……うわっ」

「服を探しているのだけれど、何かいいものあるかな」

「そうですね。やっぱりますば下着でしょうか。パンツなら向こうのコーナーに……」

「パンツなんかいらないよ。そうだな、こう、煌びやかなドレスとかいいな」

「ド、ドレスですか?  いや、まあ何を着るのも個人の自由ですが……」

「華やかなやつがいい。金の装飾がぶらさがっているような」

「金ならもうぶら下がっていると思いますが……では、こちらのドレスはいかがでしょうか」

「うーん、いや、やっぱりあまり派手なのもどうかな。控えめなデザインも似合いそうだ。あまり主張しないタイプだし」

「だいぶ主張してるように見えますが。完全におのれをさらけ出してる」

「小物から相性を考えてドレスを決めるのもいいかもしれないな。ドレスを着せず、まずはティアラやハイヒールを付けてみるとか」

「絶対優先順位間違えてますよ」

「あっ、そういえば花屋にバラの花を予約したんだった。ドレスよりそっちが先だ」

「完全にド変態じゃないですか」

 メロスが服屋の外に出ると、街の様子がなんだかおかしい。メロスは住人に話を聞くことにした。

「もしもし、そこいく街の人」

「はい、なんで……うわっ」

 街人の話によると、人間を信じられなくなった王様が街の人間の首を手当たり次第にはねているというのだ。

「哀れな王め、おかしくなってしまったんだな」

「あなたも大概ですが」

 激怒したメロスは兵士たちが待ち受ける城の門まで向かった。

「おい、王様を出せ!」

「騒がしいな。いったい誰……うわっ」

「恥知らずな王め。私が成敗してくれる」

「恥知らずなのはどっちだ。ひっとらえてやる!」

 兵士たちの強襲に、ヒップアタックやカニばさみ、フライングボディープレスで対抗するメロスだったが、あえなく捕らえられてしまった。

 王の前に連れて行かれるメロス。

「城の前で反逆者が捕まったらしいが、いったい何者……うわっ」

「おい王様。貴様は恥ずかしくないのか!」

「どの口でそれを言うんだお前は」

「貴様など、権力を笠に着ているだけの老人だ!」

「お前なんか何も着ていないじゃないか」

 王様はメロスに死刑を言い渡した。

「待ってくれ。明日は村で妹が結婚式を控えているんだ。三日、三日待ってくれたら必ずここへ戻ってくる。親友のセリヌンティウスを人質に置いていこう」

 セリヌンティウスを王様のもとへ残したメロスは、走って村へと戻った。

「おっと、今日は結婚式なのだから、正装くらいしないとな」

 ネクタイだけを身につけたメロスは妹の美しい花嫁姿をまぶたに焼き付けると、翌朝ネクタイともうひとつのネクタイをブラブラさせながらシラクスの街へと急いだ。

 すると、突然現れた盗賊たちがメロスに襲い掛かった。

「貴様ら、私の身包みをはがそうというんだな!」

「これ以上お前の何をはがせと言うんだ。みんな、やっちまえ!」

 メロスと盗賊たちはくんずほぐれつの大乱闘。照りつける太陽の下、たくましい男達の汗がはじけとぶ。

 なんとか盗賊たちを倒したメロスだったが、走り続けて体力は限界寸前。メロスのメロスも力なくしなびたまま、メロスはその場で倒れそうになったが、ネクタイを脱ぎ捨てることで体が軽くなり、再び猛然と走り出した。

 そしてついに、城へとたどり着いたメロス。セリヌンティウスが張り付けられた処刑台には、メロスの噂を聞きつけたたくさんの街人たちがいた。

「私だ! メロスだ! 今戻ったぞ!」

「おお、罪人が帰ってき……うわっ」

「すごい、本当に間にあっ……うわっ」

「あれが王様に立ち向かった勇……うわっ」

 約束どおりにセリヌンティウスが解放されると、友情を確認したメロスとセリヌンティウスは硬く抱き合った。二人の姿を見た王様はこれに感動し、自分も仲間に入れてくれと言い出した。シラクスの街に平和が戻ったのだ。

 そのとき、ひとりの女の子が突然、メロスの頭から赤いシーツをかぶせた。困惑するメロスに、セリヌンティウスはそっと教えてあげた。

「メロス、お前はまだ気づいていないのか」

「いったい何のことだ」

「お前はこの間からずっと……寝癖がついているんだぞ」

 勇者はひどく赤面した。

 

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