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この百合マンガがすごい!2016

 

 

 

 やってきましたこの季節。今年もたくさんの百合作品が百合ヲタ達の身体の上を通りすぎていきました。元々は「良質な百合作品を広く紹介することで百合マーケットを拡充し、百合作家を支援する」という趣旨で始めたこの企画も今年で三回目です。

 過去の記事はこちら。

 この百合マンガがすごい!2014

 この百合マンガがすごい!2015

 前回の記事もお陰さまで多くの人の目に留まっていただけたようで、あの記事を介していろんな方との出会いがあった他、台湾のオタク向け巨大掲示板で「日本のメディアが百合マンガランキングを発表!」といった感じで紹介されてしまい、図らずも日本代表ヅラしてしまったことをなんだかえらく申し訳ないと思う一方で、海も国境も超えた百合ヲタ達の情熱をこの身で感じてしまっては、今後の活動にもますます力が入るというものです。

 今回も2014年12月1日から2015年11月30日までに単行本が発行された百合マンガ作品(新装版・海外作品・3巻以上の作品・前回までのランキングでランク入りしたシリーズ作品の続刊を除く)から管理人が独断と偏見で選んだランキングTOP30を紹介します。

 

 

 30位から11位まではこちら(敬称略)。

 

 

 

第30位 イクニゴマキナコ/森島明子『ユリ熊嵐』(1~2)
今年の1月からはTVアニメも放送された、『少女革命ウテナ』の監督・幾原邦彦原作の作品。

第29位 楽時たらひ『にじいろシークレット』
人気作家の同人作品を集めた、少女たちの瑞々しさが溢れる百合作品集。

第28位 ライアーソフト/とい天津/文尾文『屋上の百合霊さんSIDE-B 仲良しクイズ』
人気百合ゲームソフトのオリジナルストーリーによるコミカライズ作品。

第27位 胡原おみ『アヒルのバレエ』
ひょんなことからバレエを始めることになった同性カップルの顛末を描く味のある長編。 

第26位 アキリ『ストレッチ』(1~3)
web漫画誌で連載され好評を博した、ルームシェア生活を送るOLと女子大生の日常をストレッチを通して描く長編。 

第25位 大沢やよい『2DK、Gペン、目覚まし時計』(1~)
遠距離恋愛中のエリートOLと生活能力ゼロの漫画家志望アラサー女の共同生活を描く、これからの展開に期待大な長編連載。

第24位 犬丸『演劇部の魔女と騎士』
女子校の演劇部を舞台に、緻密な構成で描かれる連作短編集。小川一水の解説付き。 

第23位 真昼てく『きらぼしのはこ』
身内から心ない暴力を受け続けた従姉妹をかくまったことから始まる生活を描く表題作など、キラキラした魅力を放つ短編集。 

第22位 今村陽子『ほんとのかのじょ』
わがままなお嬢様の女子高生と彼女に惚れたドM少女による、異彩を放つライトSM百合ロマンス。 

第21位 缶乃『サイダーと泣き虫』
『あの娘にキスと白百合を』の著者が不器用な女の子たちを描く、初の百合短編集。
 

第20位 コダマナオコ『捏造トラップ-NTR-』(1~)
彼氏持ちの少女ふたりのドロドロとした『寝取り』を描く、エロスと嫉妬に満ちた百合作品。

第19位 天野しゅにんた『あやめ14』(1~2)
百合界の名匠が描く、すぐにいやらしい妄想をしてしまう女子中学生のぶっとんだエロ百合コメディ。 

第18位 くみちょう『愛羅武勇より愛してる』
自分に正直な優等生と恥ずかしがり屋のヤンキー少女による凸凹百合ラブコメ。

第17位 くずしろ『竜崎さんと虎生さん~百合姫短編集~』
人気作『犬神さんと猫山さん』のスピンオフほか、アダルトな作品を含む実力派の短編集。 

第16位 森島明子『聖純少女パラダイム』
百合界の現人神がお嬢様学校を舞台に、正統派でありながらクセのある百合を描く傑作長編。

第15位 ユキムラ『傷心』
BLコミックでも活躍する作者による、大人の雰囲気漂う初の百合短編集。 

第14位 未幡『少女2【しょうじょのじじょう】』
高嶺の花と呼ばれる先輩と彼女の憂いに踏み込んでくる元気な後輩、その周辺の人間模様が確かな実力で書かれた正統派百合短編集。

第13位 竹宮ジン『シーソー×ゲーム』
身長差や歳の差など、バランスに満ちたカップリングを巧みな筆致で楽しめる短編集。

第12位 伊藤ハチ『小百合さんの妹は天使』(1~2)
姉の恋人になりたい天使のような妹と、その姉の共同生活を描くキュートな姉妹百合。

第11位 志村貴子『淡島百景』(1~)
歌劇学校の合宿所を舞台に少女達の群像劇を描く、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞作。

 

 

 本当なら例年通りのTOP20にしようと思ったのですが、なにぶん嬉しいことに今年は良質な百合が豊作だったためになかなか20作に絞り込むことが出来ず、どうせならとTOP30にしました。

 性格や身分が正反対だったりギャップがあったりする百合作品が多く見受けられた中、個人的には設定や画風が大好物な大沢やよい先生の『2DK、Gペン、目覚まし時計。』や、名誉ある賞を手にした志村貴子先生の『淡島百景』など、続刊が楽しみな連載作品にも注目しています。

 

ここでTOP10の発表の前に閑話休題。

 

 

特集:エッセイ漫画で百合を読む

 昨今はweb発のエッセイ漫画が多く書籍化され、LGBT関連の話題が社会の関心を集める中では百合(?)関連のエッセイ漫画もご多分に漏れず。

 ここでは去年から今年にかけて刊行されたエッセイ漫画の中から、百合を楽しむ、百合を学ぶ、etc……といったようなオススメのエッセイ漫画を紹介します。

 

 

 ネギたぬ『まんがで綴る百合な日々』

まんがで綴る百合な日々

まんがで綴る百合な日々

 

 同棲中の百合カップル、ネギさんとたぬさんによるブログ発の四コマエッセイ漫画。二人の出会いから同棲生活の一部始終、セクシュアルマイノリティに関する真面目な話題などが、とにかく終始ラブラブな二人の日常が描かれており、どこまでイチャイチャすれば気が済むのだというほどの二人の仲良しぶりに、読んでいて心が暖かくなってきます。二人の交際がスタートするまでの流れは特に泣くシーンでもないのになぜか読んでいて号泣してしまいました。末永く爆発しましょう。 

 

小池みき『同居人の美少女がレズビアンだった件。』 

同居人の美少女がレズビアンだった件。 (コミックエッセイの森)

同居人の美少女がレズビアンだった件。 (コミックエッセイの森)

 

  ライターとしても幅広く活躍中の小池みき氏による、ルームシェア先で出会ったレズビアンの女性タレント・牧村朝子(まきむぅ)氏とその恋人であるモリガ氏の出会いと交際の日々、そして本の出版までを描いた本作は、魅力的な人物達の魅力的な関係性、セクシュアルマイノリティを取り巻く諸問題や個々人の悩みを作者ならではの視点でときに楽しく、ときに優しく切り取っています。爽やかかつ鮮やかな胸打つラストには、思わず拍手。

 

 中村キヨ(中村珍)『おかあさん二人いてもいいかな!?』

お母さん二人いてもいいかな! ?

お母さん二人いてもいいかな! ?

 

 『群青』『誰も懲りない』などの傑作で知られる漫画家・中村珍氏がレズビアンのシングルマザーと恋に落ち、二人の子供を育てながら様々な問題に触れ、家族というものを模索し、築き上げていく物語。周りから見ると少し変わった形の家族が様々な課題、理解、過去、そして未来に向かい合う度に、登場人物たちの口から編まれていく言葉のひとつひとつが強い力を持ち、作品の根底に流れている深い愛情や誠実さが読者の心を震わせる必読の1冊です。

 

 

 

 それでは注目のTOP10、カウント~ダウン!(首クルクル指ピシィ)

 

 

 

 

 第10位 めの『かわいさ余って好きさ100倍!!』

かわいさ余って好きさ100倍!! (IDコミックス 百合姫コミックス)

かわいさ余って好きさ100倍!! (IDコミックス 百合姫コミックス)

 

  電撃だいおうじで『ちぐはぐ少女のダイアログ』を連載し好評を博した、キュートな画風で支持される人気作家・めの先生の百合姫から初となる単行本は、2014年から2015年にかけて発表された同人百合作品に描き下ろし一編を含めた短編集。

 女子校に入学してしまった女の子がかっこいいクラスメートの女子を”彼氏”にしてしまう「ボーイフレンド」、学校の中庭で毎日眠っている先輩に惹かれていく女の子を描く「眠り姫は無邪気に笑う」等、恋する少女達の「かわいさ」がキュートな画風で余すところ無く表現された、百合ベテランにもビギナーにも幅広い層におすすめできる一冊になっています。

 百合姫2016年2月号からは新作連載『あとで姉妹ます。』を開始予定と、活動もますます旺盛なめの先生。今後の動向に注目です。

 

 

 

 

第9位 大沢やよい『スパイスガールズ』

スパイスガールズ (IDコミックス 百合姫コミックス)

スパイスガールズ (IDコミックス 百合姫コミックス)

 

 百合姫常連としてコンスタントに良作を発信し続ける大沢やよい先生。本作は個性に満ちたキャラクター達が歳の差百合やギャップ百合など、いろんな「違い」で萌えさせてくれる出色の短編集となっています。

 毎日自分のバイト先でエッチな本を大量に売り払っては官能小説を買い、通学中に自分の横で読み耽る少女のことが気になる女子高生を描く表題作、登校拒否中のナマイキJCと、それに振り回される冴えない家庭教師との心の交流を巡る『水色メソッド』、しっかり者の女子高生から告白されたちょっと抜けてる女教師、その恋模様をせつなくも爽やかに記す『先生、卒業。』など全4編。 

 ちょっとユニークな作品から読者を物語の世界へ引っ張りこむ作品まで、実力派の作者の面目躍如とも言えるバラエティ豊かな作品集。今月には初の続刊連載となる『2DK、Gペン、目覚まし時計。』の2巻が発売となるので、未読の方は本作と一緒に押さえておきましょう。

 

 

 

 

第8位 芥文絵『妹ができました。』

妹ができました。 (ウィングス・コミックス)

妹ができました。 (ウィングス・コミックス)

 

  少女漫画誌などでも活躍する作家・芥文絵先生の初となる本格百合単行本は、今はなき「つぼみ」「ひらり、」などに掲載された短編に描き下ろしを加えた珠玉の短編集。

 新しく出来たばかりの人見知りな義理の妹と拙いながらも距離を縮めようとする女子高生を描く表題作に、大切な親友から女性と付き合っていることを告白された女子大生の心の機微と関係の変化を前後編で描く「わたしの好きなあの子のこと」といった全7篇の物語が繊細なタッチで描かれており、作者ならではの温かくもせつない世界観を丁寧に映し出しています。

 本作に収録されている「たゆみなく生きよ」と「私の愛する河野さん」は、太っ腹なことに作者ホームページにて公開されているので、試し読みをしてその魅力に触れるのもアリでしょう。

 

 

 

 

第7位 鹿嵐『シュガールーム』

シュガールーム (IDコミックス 百合姫コミックス)

シュガールーム (IDコミックス 百合姫コミックス)

 

  質の高いオリジナル百合同人を生み出し続ける鹿嵐先生による初の商業単行本は、こちらもまたこれまでに発表された百合同人作品をまとめた一冊。僕のような社会人百合中毒末期患者にもたまらない、甘さも苦さも味わえる短編集です。

 部屋に訪れた後輩女子から突然告白された27歳女子の恋を描く「Iris」、交際10年を迎えたアラサー女子カップルの胸中にうずまく不安と愛情に心揺さぶられる「夢見る少女じゃいられない」他、女子大生や女子高生を主役に据えた作品を織り交ぜた全7本で、大人から思春期まで幅の広い百合の魅力を再確認できる佳作となっています。

 『あの娘にキスと白百合を』の缶乃先生も推薦する本作。昨今は同人作家の発掘に勤しむ百合姫編集部がまたしても釣り上げた新しい才能の商業進出に、今後の活動も期待したいところ。できればまた良質な社会人百合を!

 

 

 

 

 第6位 百乃モト『私の無知なわたしの未知』(1~)

私の無知なわたしの未知(1) (KCx)

私の無知なわたしの未知(1) (KCx)

 

  社会人百合といえばこちらも負けていません。百合マンガ界の名匠・百乃モト先生の一般誌連載作品は、OLの同性カップルと主人公の幼なじみの男子をめぐる三角関係を描いて大きな話題を呼んだ意欲作。

 母と二人で暮らす22歳のOL・湊は幼なじみの晴人から突然プロポーズされ、自分を抑えて周囲の期待に応えようとするあまり息の詰まる生活を送っていたところを、先輩OLの摩耶と一夜を共にして恋に落ちたことから、「非日常」へと誘われ少しずつ自分を開放し、気持ちの変化が訪れていきます。しかしそんな二人の関係を晴人に気づかれてしまい……百乃先生の魅力と技術がギュッと詰まった長編作品です。

 講談社の公式サイトでは第1話の試し読みもできるので気になる人は秒速でクリック。来年の1月には完結巻となる2巻も発売されるので、こちらも欠かさずチェックしておきましょう。

 

 

 

 

第5位 くずしろ『ラブデス。~短期集中連載集~』 

ラブデス。~短期集中連載集~ (IDコミックス 百合姫コミックス)

ラブデス。~短期集中連載集~ (IDコミックス 百合姫コミックス)

 

  『姫のためなら死ねる』『犬神さんと猫山さん』などの百合ヒット作で知られるくずしろ先生による、百合姫で短期集中連載された作品を集めた本作は、血と圧倒的な暴力、タバコの匂い漂う殺伐としたインパクト溢れる、一撃必殺といえる渾身の一冊。

 女子高生の翔子とあいかは普段はラブラブであるにも関わらず、ちょっとしたことで諍いとなり所構わず凶器を振り回しては相手の命を取りかねないほどに戦い傷つけ暴れまわる狂気のカップル。「エクストリーム痴話喧嘩」と呼ぶに相応しい戦いは、いつもノロケたオチがつき……誠にクレイジーな表題作他、周囲からは恐れられているけれど、実は二人きりのときだけイチャ甘になる不良少女カップルを描く「にこちゅう」を含む、鬼才・くずしろ先生の尖ったセンスが如何なく発揮された問題作。

 甘いだけの百合じゃ物足りないという腹ペコ百合オタクの胃袋を超重量級の内容で刺激する本作の登場に、くずしろ先生の引き出しの多さを感じずにはいられません。これからはどんなパンチを繰り出してくるのか固唾を呑んで見守りたいところ。

 

 

 

 

第4位 磯谷友紀『さようならむつきちゃん』

さようならむつきちゃん (ひらり、コミックス)

さようならむつきちゃん (ひらり、コミックス)

 

  少女漫画誌などで多くの作品を発表している磯谷友紀先生が満を持して送る初の本格百合単行本は、「ひらり、」や同人誌などで発表された全8編の短編を網羅した、少しファンタジックでビター&スイートな傑作短編集。

 幼い頃から生活を共にしてきた母の後輩が嫁ぐ前日、一緒に入る最後のお風呂で巡らされるせつない思いを描いた表題作ほか、息子の同級生から告白されたシングルマザーと告白した女子高生、25歳差の歳の差恋愛を葛藤やすれ違いを混じえて描く「少女の魔笛」「桜の実の熟する時」など、ときにリアリティを伴い、ときに非現実な世界を巧みな描写力で表現した、バラエティ豊かな佳作となっています。

 現在二本の連載を抱えて大忙しの磯谷先生ですが、こういった実力派の方が発表する百合作品はやはり格別なもの。もちろん氏の他作品もチェックしつつ、新しい百合作品の発表に期待しましょう。

 

 

 

 

第3位 森永みるく『お姫様のひみつ』

お姫様のひみつ (ひらり、コミックス)

お姫様のひみつ (ひらり、コミックス)

 

  出たよ出た出たついに出ました。海外でも高い支持を受ける百合マンガ界の人間国宝・森永みるく先生の新作は、得意技のJK百合。今回もまた、こちらの期待のハードルをたやすく飛び越えてくれました。

 いつでも女の子らしくあることを心がけ、王子様と呼べる人との出会いを待っている今時の女子高生・美羽は、学園中からの憧れの的となっているイケメンJK・藤原先輩の秘密を握ったことから、いつか男子と付き合う日のためのシミュレーションとして恋人になることをお願いします。最初はただの恋人ごっこだった二人の関係は、周囲の冷たい視線やすれ違いを重ねながら、次第に本気の恋愛感情へと発展してくのですが……。

 個性的なキャラにロマンスに満ちたシナリオに可愛らしさ溢れる作画とまさに安心と感嘆のクオリティ。万人にオススメできる本作は「ひらり、」やweb上で発表された連載作品を収録した長編となっています。多くの名作を残してくれた「ひらり、」なき今、再び逆境に置かれんとしている百合マンガの世界も、森永先生がいれば光明も見えてくるというもの。

 

 

 

 

第2位 竹宮ジン『喋喋喃喃』

喋喋喃喃 (IDコミックス 百合姫コミックス)

喋喋喃喃 (IDコミックス 百合姫コミックス)

 

 百合マンガ界のホームラン王、もとい女王。竹宮ジン先生による百合姫から6冊目となる本作は個性豊かな四人の女子高生の中に芽生えた恋愛感情と形を変えていく関係を描いた長編作品です。 

 主人公のあおい、面倒見のいい千尋、少し毒舌の奈緒、元気いっぱいの志乃は仲良しJK四人組。あおいは昔から千尋のことが好きだったのですが、千尋といえば志乃に夢中。親友のままでいようと封じ込めたあおいの思いを奈緒は見抜いており、奈緒は突然あおいにキス。まさかの事態に戸惑うあおいと、そんなあおいに惹かれていく奈緒。そこから仲良し四人組の関係は、思いの錯綜と共に少しずつ変化していきます。 

 毎回新刊が出る度に読者としては圧倒的感謝をせずにいられない竹宮ジン先生。今年は13位のほうにもランクインさせていただいた短編集『シーソー×ゲーム』と、百合姫から二冊も刊行してくれました。全3巻の名作『想いの欠片』のような本格長編にも期待しつつ、尽きることない活動力に今後もますます目が離せません。

 

 

 

 

第1位 仲谷鳰『やがて君になる』(1~)

やがて君になる (1) (電撃コミックスNEXT)

やがて君になる (1) (電撃コミックスNEXT)

 

  本作の登場を誰が予測できたでしょうか。『電撃大王』といえば美少女中心のマンガやアニメ・ラノベのメディアミックス作品などで広く認知される漫画雑誌。その中において今年から連載が始まった、雑誌のカラーとしては異端とも言えるド直球王道百合作品が、読者の期待をはるかに上回るクオリティを披露して今年のナンバーワンです。

 新入生の侑は誰かのことを特別に想う気持ちがわからない女子高生。中学の卒業式の日に男子から告白されたものの未だに返事が出来ずにいます。そんな侑は生徒会で出会った美しい生徒会長・燈子の言葉から、彼女は自分と同じ人間なのだと思っていました。しかし燈子のほうは侑へと惹かれていき、ついに告白、キスにまで至ります。それでも心が揺らぐことのなかった侑だったものの、まっすぐな想いをぶつけ続ける燈子に羨ましさなどの複雑な感情を抱きながらも、少しずつ考え方に変化が見え始め……。

 キャラクターの精神の機微や表情、何気ない仕草まで、読めば読むほどに味が出るほど緻密に描かれた、百合マンガとしてブレない強度を持った本作は、設定やキャラ立ちはどちらかというと王道で定番。それでも細部まで丁寧に情熱を持って描けばいくらでも面白い作品に仕上がるということを証明してくれました。初の商業連載でありながら確かな力量を見せてくれた仲谷先生に拍手。今後の展開から目を話せない長編です。

 

 

 

 

 さあさあ今年はこんな感じでどうでしょう。言わずもがなこのランキングはあくまで筆者の嗜好やオススメ度合いに沿って作られた極々個人的なランキングであり、決して作品の優劣を判断したものではないことをご了承ください。

 もちろんここで紹介しきれなかったオススメの作品も多くあり、可愛らしいキャラクターが魅力的な雪子先生の『ふたりべや』や、深見真先生が原作を務めるガールズアクション『マーメイド・ラヴァーズ』、選出基準の問題でランクインこそしなかったものの、『citrus』『あの娘にキスと白百合を』『加瀬さんシリーズ』など続刊ものもますます絶好調。

 今年は本格百合漫画雑誌の第一人者である百合姫がさらなる躍進を遂げ、百合漫画誌としては初の月刊化、さらに国語版の配信を開始するという偉業を達成。また渋谷区が日本初となる同性パートナーシップ証明書の交付を開始、フジテレビでは初となるガールズラブドラマを放送するなど、世論や行政、メディアに大きな流れが生まれた一年となりました。

 一方、単著の出版やメディア・イベントへの出演、ライター業の始動や転職など色々と忙しかった管理人ですが、百合作品のチェックは怠っておりません。今後も百合豚として栄養補給に切磋琢磨していく所存です。

 またこの記事は先述のように百合市場のマーケット拡充と百合作家への支援を目的に書いており、「いい百合漫画をたくさん知ることができました」という意見を多く頂戴して、百合ヲタの本懐を遂げて嬉しいことも事実なのですが、出来ることなら僕が紹介してから買うよりも、日頃からアンテナを伸ばし、できれば単行本の出た直後などに買ってもらいたいというのが本音です。そのほうが、百合作家の方々の支援に繋がりやすいと思うので……。

 来年も豊作だといいですね。それではまた1年後。

 

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